「酒、…はまだ未成年か…。俺も運転だし残念だがなしだな。料理は?」
「…なんでもいいです。…高くないので」
「俺が誘ったんだからキミに出せなんて言わないよ?」
「……」
夜景を見ながら男二人で並んで座ってこそこそ顔を寄せて話すのは普通おかしくないのだろうか…?
だが尾崎は気にした風でもなく、店の者も不審そうには見えない。
最もそこはプロで見せないだけかもしれないが…。
「アンタはスーツ着てるからいいけど、俺はいいのか?こんな格好で」
何しろTシャツにジーンズだ。
「気にしない。克己は顔も物腰も上品だから問題ない」
軽く尾崎がそんな事を言ってドアの傍に控えていた店の従業員に向かって手を上げた。
「お前…そんなに節操なしだったのか…?」
「さぁどうかなぁ…?」
黒のギャルソン服を着た従業員が尾崎を呆れたように見て親しげに話しかけてきた。
それを克己はじっと見る。
どうやら店の者が尾崎の知り合いらしく、だから平気だったのか、と納得した。
克己は余計な言葉は発せずただ黙っていただけで、尾崎が勝手に注文を終わらせ、従業員はさっきの親しげな気配を消し頭を下げて出て行った。
黒を基調としたテーブルもダウンライトも大人のデートを演出していると思う。…克己は誰ともデートなんてした事などなかったが。
「…というわけ」
尾崎がくすっと笑った。
「…友達?」
「というか悪友かな」
尾崎もここに女性を連れてきてデートするのだろうか…?
見た目だったら上等な男の部類だろうし…。
背も高いし肩幅も広い男らしい男の身体、似合うスーツだって大人でスマートだ。
何故か克己には胡散臭げに見えるが普通は真面目そうに見えるだろう眼鏡も堅い印象に似合っている。
そんな尾崎から視線を逸らし夜景に目を向けると綺麗だな、と素直に思う。克己でさえちょっと夢見心地になりそうな気がするから女性を連れてきたらさぞやその雰囲気に酔わされるだろう。
並んで座る尾崎との距離が近いな…と落ち着かない。
なるべく人と接するのを避けてきた克己にとって誰かと食事するなんてない事だ。
違う。食事に来たんじゃなくて話があるから来たんだ。
「…話って…?」
「あー…」
尾崎が苦笑を漏らした。
「…真面目だなぁ…ま、話ってのも嘘じゃないけど…。食事と雰囲気も楽しんで欲しいな…とは思うけど。料理も美味いよ?」
尾崎の言葉遣いは敬語になったり砕けた感じだったりと一貫性がないような気がする。最初は随分とぞんざいで厚かましい感じだと思ってたら妙に丁寧になって、今は馴れ馴れしい感じだ。
「随分と今日の事気にしてるな、と思ったんだ。君がそこまで気にする事はないのに…」
「でも…俺みたいなのが少しでも協力できれば…とも思うし」
「…初めはそこまででもなかったんだけどな…。唯くん来てから変わっただろう?」
「…そうだね。触発された…と思う。今まで自分が役立つなんて思った事もなかったし」
「…捜索で…目覚めた…?」
「…かもね。でもどうせなら助けられるような協力がいいけど…」
「……そうだな。昨日のニュースもショックだったか?」
尾崎の声のトーンは静かでざわりと克己の何かを刺激する。
「どうだろう…。でもこの間の帰りにアンタに言われた事があって…見つかった方がいい、と。それが…そうかな、とも思ったから…昨日のはそうショックでもなかったかも…。心の準備で、もしかしたら…って思ってた部分もあったし…」
尾崎は黙って克巳の言葉に耳を傾けていた。
「俺達の捜査でもそうなんだけど…上手くいく事いかない事がある。毎回スムーズにいくなんて事は決してないし…。そうかと思うと見落としていた部分があってすとんと解決する事もある。だから克己もそんなに気負わないで気にする事ない」
今日何も出来なかった事を慰めてでもいるのだろうか?
そういえば今日は一日ずっと傍にいたな、と尾崎を盗み見る。
「…なんで今日はいたんだ?」
「ん?ああ…ちゃんとキミの仕事ぶりを見ておこうかと…。克己自身に興味が湧いたってのもあるけど」
興味、とは一体どういう意味なのか。力に対しての興味本位って事ではないとは分かるけど…。
近い位置に座る尾崎と視線が絡み合い、どきりと克巳の心臓が高く鳴り出す。
尾崎の銀縁の眼鏡の下からの眼差しが鋭く克己を捕らえていた。
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