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追憶の彼方から放されたい 20

 そのまま家に中に入ると克己は自室に行った。父親の車はすでに戻っているので帰って来ているらしいがだからといってわざわざ会いにいくことない。
 家の住人は克己に父親だけ。だが家は広く無駄だな、と思ってしまう。
 広い家だから人の気配もあまり感じられないのはかえっていいか…。

 克己は自分の部屋に入りテレビをつけてニュースをチェックした。
 やはり連日報道されているが進展はないらしい。
 なにか分かれば…。
 そう思いながら机に置いた地図の入った袋を見た。見たけれど今は動く気がしない。

 何も分からないで地図を見ても意味がないのは今日で分かっている。
 それにどこかまだなんとなく気持ちが落ち着かないような気がする。
 ……これは尾崎のせいだ。
 酒は飲んだこともないし飲みたいと思った事もないけれど、酔ったら今みたいな感じなのだろうか?
 どこかふわふわしている気がする。

 尾崎の部屋に行った時も思ったが…どうも自分の今までの行動範囲の中に含まれない事だったからそう思うだけだ。

 尾崎なんかの事よりも今日の事だ。
 どうにか何かに気づけないだろうか…?
 何も分からない時にこそ力になれればいいのに…。それに何か大きな事件の起きる前に分かるとか…。
 予知なんて一度も考えた事もした事もないし無理だ、とは思うけれど。

 武川刑事は克巳が携帯を見ても何も感じなかったのはそこに犯人が何も関連してないからじゃないか、と言ったけどそこは克巳にも分からない。
 ただ単に顔も名前も知らないから反応しなかったのかもしれないし。
 地図をただ眺めても同様だった。
 行方不明の子、と写真を見せられて地図を見た時は分かったのに…。
 感覚で察知した。それが今日は何も感じなかった。

 カードが見える様に何かを見えないだろうか…?
 でも書かれている事ではない。ただすでに起こった事ではある。
 一番は起こる前に見えればいいのだが。
 あんなに自分の変な力が鬱陶しいと思っていたのに…状況が変わっただけでこんなに意識が変わるとは思ってもみなかった。

 この力の所為で母親から疎まれ、人から距離を置くようになっていたのに今は反対にこの力のおかげで人と繋がりが出来た。
 …分からないものだな、と克巳はベッドにごろりと横になって考えた。
 唯くんは人に触れると考えが聞こえる。克巳は聞こえない。でも物に残っている気が見える時もある。唯くんは分からない。でも色濃く残っているのは唯くんも感じるらしい。

 自分の事でさえ全部を分かっているわけじゃないんだ。
 地図で地名があんなに気になって見えたのも初めてだった。
 ああいう意識で見た事などなかったから…。だったら何か別の事もできるのだろうか…?
 少し考えるが見当もつかない。

 「はぁ…」
 熊谷さんも尾崎も気にしないように言ってくれるが…。
 尾崎に感じていた胡散臭さはあまり気にならなくなった。代わりにバカにされている気分にはなってくるけど…胡散臭いよりいい。

 …初めて誰かと個人的に食事なんかした…。
 不思議だ…。
 それでちょっと緊張したんだ。だから雰囲気にも飲まれたんだ。
 夜景を見ながら雰囲気がある静かなレストランで食事なんて、克巳はしたこともないけどデートの様だ。

 誰とも付き合うなんて今は考えられない事だけど。
 唯くんみたいに誰かに頼ったり甘えたり出来るようになるのだろうか…?
 あ、いや…克巳は男なんだから頼られるほうか…?
 「…無理だな」

 自分の自信も何もないのに誰かを守ったり、なんて絶対無理だ。
 だいたい克巳の事を知っても傍にいてくれる人なんていないだろう。生んだ母親でさえにも気味悪がられるのに。
 でも唯くんは今は武川刑事の事を頼って甘えて…その表情が可愛いな、と思って、そして羨ましくなる。
 誰かそんな存在が克巳にもできたら自分も強くなれるのだろうか…?

 そういえば…尾崎から可愛いという耳慣れない言葉を今日も聞いたな。どうせ克巳の反応を面白がっているだけだろうけど。ゲーム感覚のような尾崎との軽々しい会話は悪くないとは思う。からかうのはやめて欲しいがそれ以外はわりと普通に話せる。力の事もいたって尾崎は普通の態度だ。

 こんなの警察の関係でじゃなかったら尾崎は興味もないのかもしれない。
 自分が刑事になれたら、なんて欲を持ってたから克巳に近づいて来ただけで、そうじゃなかったらきっと克巳の事など知らないままのはず。
 そう…きっと。
 
 
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