朝から地図を見ても勿論何も感じない。
「はぁ~…」
目が疲れる。
なにしろ裏面が透けて見えるから…。
表に書いてあるか裏に書いてあるか、区別はつくけど単に疲れる。
だから克巳は本を読むのも苦手だ。
そういや小さい頃からそうだった。まだ母親が克巳の力を知らない頃、読んで聞かせてくれた頃、皆は大変じゃないのかなとか思った事もあった。
透けて見えないのが克巳には不思議な事だったんだけど…。
自分の方が普通じゃなかったんだった。
ふと窓から外に視線を向けた。暑そうだが天気はいい。
気分転換に外に出てみようかと思った。
毎日家にばかり閉じこもって考えても思考回路は結局同じ所をぐるぐる回っているだけだ。
どこか行きたい場所なんてのもなかったけれど、と思いながらも小さなバッグを肩から斜め掛けにして背中に回しそのままちょっと出かけてくる、と言って克巳は家を出た。
暑いなぁと陽射しの強さにげんなりしながらも電車の駅に向かう。
定期が切れてないので使えるので、店が多い駅で降りてぶらぶらしようか、と電車に揺られた。
電車の中も日中なのに人が多いな、と思ったら今日は日曜だった。
いまだ犯人の手がかりが出ないらしいが…連日報道はまだ続いていた。
そのうち見つからないと報道も小さくなっていくはず。真新しい事件が起きればそっちに目が向いてしまうだろう。
そういうのもやるせないと思う。
どうにかしたいのに出来ない自分がもどかしい。
…そんな事を思いながら電車に揺られていたが、人に見られている。ちらちらと視線を向けられるのはいつもの事だ。
男らしくない見た目は今までも学校やどこでもよく見られているのも知っていた。
告白を受けた事もある。…共学なのに男からだ。
勿論そんなの受ける気もないので即座に断る。だいたいにして人の事を何も知らないのに好きになるなんておかしいだろう。
いや、そういう問題以前に、男とか女という問題よりも克巳にとっては人として普通と違うというのが一番の引っかかりだった。
唯くんと武川刑事の事をすんなりと受け入れられたのも同じ思いをしているだろう唯くんの事を武川刑事が分かっているから…だからすんなりよかったな、と思えたのかもしれない。
唯くんに自分を重ねてみてるのかも…。
姿形は似ていないけれど唯くんは近しい存在だ。
克巳は電車を降りると目的もなくただぶらぶらと駅周辺を歩いた。たまにショップを覗き込むけれど別に欲しい物もない。
バイトもしていないが小遣いにも困ってはいなかった。毎月父親から使っていい分が通帳に振り込まれるが克巳はあまり使わないのでかえって貯まっていってる状態だ。
父親は金を与えていればいいとでも思っているのだろう。
あっても困りはしないので黙ってもらっているが。
暑いし喉が渇いたからどこかに入ろうかとコーヒーショップを探した。
「あ…」
あった。…あったけど、余計なものまで見つけてしまった。
尾崎だ。
コーヒーショップの窓越しに見える尾崎の姿は、仕事が休みなのかスーツ姿ではなく、シャツにスラックス姿だった。でもラフというほどでもなく髪もきちんといつも通りに上げてセットしてある。
そして…一人じゃなかった。
窓際の席で女性と向かい合わせで座っていた。
女性が俯いて口を押さえているのを尾崎が宥めるように肩に手を置いていた。
…休みの時に電話していいかとか言ってたのに…やっぱりからかっていただけなんだ。
ふいと克巳は視線を逸らし足早にその場を去った。
別にショックでもなんでもない。
でも帰る気にもなれずにそのまま歩いて別のコーヒーショップを見つけるまでずかずかと足早になっていた。
…彼女なんだろうか?彼女もあの克巳を連れて行ったレストランに連れて行ったのだろうか…?
別にそんな事を克巳が気にする必要はないのに。
やっと別のコーヒーショップを見つけて入り注文して窓際に座り、冷たいコーヒーで喉を潤すとやっと落ち着いた。
「はぁ」
…考えてみれば別に逃げ出すようにしてこなくても良かったのだ。
遠目だったし顔を俯けていたので相手の女性の事がよく見えなかった。
反対に遠目だったのに尾崎の事はすぐ分かったのに…。
休みの日にどこかに行こうなんてリップサービスだ。いや、克巳は尾崎となんかどこかに行く気なんてなかったし期待してたわけでもない。
それなのにこのもやもやした感じはなんだろう。
はぁ、と小さく溜息を吐き出しただぼうっと外を眺めていた。
暑いし涼しい店内から出る気力がなくなった。だからといって家に帰る気もしない。
しばらくここで時間を潰そうかと窓から外を眺めながら時折コーヒーに口をつけた。
…なんとなくこんな面白くない気分になるなら家から出てこなければよかった。
いつも家にいるのになんで今日に限って外に出てきてしまったのか。
たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m
にほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説