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追憶の彼方から放されたい 22

 克巳が窓際の席に座ってぼうっとして外を見ていると外で一人の男が立ち止まって克巳の方をじっと見ていた。
 「あれ…?」
 一度唯くんと一緒に会った事のある武川刑事の甥の子だ。

 あ、という顔をして克巳を指差して店に入ってもいい?とジャスチャーしてきて克巳は頷いた。
 すぐに店内に入ってきてそのままコーヒーを手に克巳の所にやって来た。
 「こんにちはー!偶然ですね!覚えててくれたんだ?」
 にこにこと人懐こそうな笑顔でやって来た。

 外見は武川刑事によく似てるけど大分印象は違う。
 「武川刑事と似てるから…すぐ分かるよ。…一人?」
 「そうなんです。今日は午前中は空手の道場行って、夕方は剣道の方行くんですけど。喉渇いたなと思ってたのでちょうどよかった」
 一度しか会っていないのに克巳の携帯にも彼の番号が入っている。

 「空手…?剣道…?」
 「そう。柔道もしてます。全部段もってますよ」
 「…すごいね」
 「警察入る予定なのであって損はないでしょ?」
 前も思ったけどかなりしっかりしている。しかも背もすでにかなり高いし、見た目は大学生みたいだ。

 「…唯くんと同級生…だよね?」
 「そうですよー。見えないでしょうけど」
 「…見えないね」
 「そういえば!頼みたい事あったんだ!見学に行ってもいいすか?」
 「…見学?」
 何の?と克巳が首を傾げると顔を寄せて小さく署に、と言って来た。

 「…別に俺はいいけど…?他の、熊谷さんとかにOKがでるなら」
 「よかった!叔父貴には邪魔だって邪険にされてるから。それも唯との事邪魔すんなってだけだろうけど」
 この子も知ってるんだ、と克巳はただ向かいの高校生を見た。
 「江村さんも…分かってます?」
 「まぁ」

 「ですよね」
 「……君はなんとも思わない…?」
 「…ですね。というか叔父貴が豹変しすぎだから」
 「そうなんだ?」
 「そう!見た事ねぇもん!あんなげろあま」
 げろあまにぷっと克巳は笑ってしまった。

 「…そういや唯がちょっと凹んでたみたいだけど…江村さんも?」
 「ああ…唯くんから聞いた?」
 「ちょっとね」
 この子は事情通らしい。友達が唯くんで叔父さんもお父さんも警察に関係してるからだろうけど。

 しかし自然体な子だな、と感心する。唯くんが友達だというのも、いい奴なんだと言うのも分かる。変に作ったところもないし、克巳のことも根掘り葉掘り聞くわけでもないし唯くんの事も余計な事も言わない。
 「警察に入るんだ?」
 「その予定。俺は叔父貴と違ってキャリア組目指すけどね」
 「武川刑事はやっぱり違うんだ…」
 「違いますよー。上に立つのは嫌だって言ってわざわざノンキャリアですから」

 「でも確かに武川刑事は現場の刑事さんの方が合ってる気もする」
 「そうですねぇ。あの人…基本面倒くさがりの投げやりな人だから」
 「そうなの?」
 喉が渇いていたのがずずっとコーヒーを飲みながら辛辣な事を言う。身内だから遠慮がないだけかもしれないが。

 「江村さん、大学って夏休みに課題とかあるんですか?」
 「あるよ」
 「…あるのかぁ…」
 嫌そうな顔で言うから思わずくすりと笑った。
 「少しだけね。唯くんが頭がいいって誉めてたけど?」
 「悪くはないですけど。だからといって宿題が好きってわけないでしょ?」
 「そうだね」

 正直な言葉と飾らない態度が気持ちいい。
 「うちの学部希望なんだろう?俺のノートとかレポートとかとっといてあげるよ」
 「マジ!?やった!」
 素直だなぁと微笑ましくなる。でも尾行に気づくくらい敏い子でもあるんだ。
 確かに出来る子なんだろうな、とは思ってしまう。

 「じゃ、俺もう行かないと。一回家帰ってシャワーしないとクセェし」
 くすりと笑ってしまった。
 「あ、次行くのって火曜日でしたっけ?確か」
 「そう」
 「親父に聞いてみようっと!OKでたら行きますね。江村さん俺行っても嫌とかない?」
 「ないよ」

 「よかった。もし行けたら一応おとなしくしてるんで。唯も江村さんも静かだからうるさく感じるかもだけど」
 「そうは思わないから大丈夫だ。かえって俺の事も分かってるだろうし気を遣わなくてすむよ」
 「そんな事言われたら調子こきますよ?…っと、じゃあ俺行きますね!今度色々大学の話も聞かせてください」
 じゃ、と光流くんが爽やかに手を振っていなくなった。

 おかげで少し気が紛れた。
 唯くんともあの調子なんだろうか?と微笑ましくなる。唯くんと武川刑事との事も知っているみたいだしなにかと唯くんも頼りにしてるんだろうな、とは克巳も短い時間だけでもそう思った。
 だが、光流くんがいなくなるとまた知らず克巳は溜息を吐き出していた。


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