それから唯くんと色々な事を…小さい頃からの事をお互いに話した。
親に気味悪がられたのは同じだけど、それでも唯くんは最近ご両親と歩みよれたらしい、それも武川刑事のおかげと唯くんは嬉しそうだ。
そういう所が唯くんは可愛いし、だからご両親とも打ち解けたのだろう。
捜査の事を気にしているのも克巳と一緒で自分だけが焦っていたんじゃないと分かっていても、それを唯くんと話す事で確認すれば同じ気持ちだとお互いに安心してしまう。
自分達で出来る事をしようと話しながら克巳も密かに気にしていた気持ちが落ち着いてくる。でも唯くんよりも自分の方が年が上なんだからしっかりしなきゃ、と克巳は唯くんを見てうっすらと口元を緩める。
「あ、江村さんちょっと待っててもらっていいですか?洗濯物とりこんでくる!」
唯くんがぱたぱたとリビングからいなくなった。
ここで武川刑事と一緒に暮らしてるんだ…。
きょろりと部屋を見渡した。
男二人で暮らしてるなんて思えないほど綺麗に片付いた部屋。ダイニングテーブルには醤油なんかもあって生活感が見える。
「ごめんなさい!」
戻って来た唯くんが謝った。
「謝る事なんてないよ。唯くんは偉いな…ね、食事はどうしてるの?」
「一応僕が。航さんが早い時とか休みの時は作ってくれたり外行ったりするけど」
「…本当に偉いね。…俺なんか家にいても何もしないな…」
「え?じゃあ誰が?」
母親がいない事は先に言ってあったから唯くんが不思議そうだ。
「家政婦さんがいるからね」
「…わぁ…すごい…」
唯くんがビックリした目で克巳を見て、その素直な態度にくすりと笑ってしまった。
「別に俺がすごいんじゃなくて父親がだけどね」
「そういえば家が…って言ってたもんね」
「そう。議員の江村 武っての…」
「あ!名前だけ知ってる!」
唯くんがさらに目を大きくくりくりとさせた。
「だから俺の事も表立って変だと言う奴も少ないんだ。親父に睨まれたら、と思うんだろうね。今は力があるところは誰にも見せてないから果たして知っている人がどれ位いるか俺も知らないけど」
「好き好んで見せたいわけじゃないですもんね…」
唯くんも頷く。
「そう。今はちゃんと分かってくれる人がいるからそれで十分」
「うん。分かります」
唯くんと顔を合わせてふっと笑みを漏らす。
それからも唯くんの高校の話や、光流くんの話、克巳の大学の話、武川刑事の事など少しずつ色々話した。
「…すっかりお邪魔しちゃって…そろそろ帰るよ。課題しないといけないし」
「あ、また来てください!僕、誰とも出かけないから…」
「俺もそうだよ。…じゃあまたお邪魔させてもらうよ」
「あ…今度は宿題とか分からないとこ教えてもらってもいいですか?光流と勉強してると光流はさっさと終わらせてゲームしちゃうし、つい僕も宿題あとでいいや、ってゲームしちゃったりになっちゃって…」
「いいよ。分かれば…だけど」
やっぱり可愛いなぁ、と克巳は高校生らしい唯くんに微笑ましくなる。
買い物に行くという唯くんと一緒にマンションを出てじゃ火曜日に警察で、と唯くんと別れた。
駅で電車を待っているとまた携帯が鳴って相手はまたしても尾崎だ。
…克巳は表示を見ながら結局その電話にも出なかった。
何か用事…?
でも…。
どうせ明日は時間の連絡があるだろうから出なくちゃいけないし…。
でも…なんとなくむかむかしてるのはなんなのか…。
切れた電話を鞄に入れ、来た電車に克巳は乗ると、そのまま家に帰り、今日は真面目に大学の課題に取り組んだ。
捜査の事も気になるが、今は正式に克巳は警察署員ではなく協力者だ。
…でも頭の中が色々な事を考えている。
それでも唯くんと話せたのはよかった。
年は三つも下だが唯くんはしっかりしてるし、克巳よりもずっと自立していると思う。
克巳なんか何も出来ない…。だからといって今更したいとも思わないし、必要もない。
…そんな事を思ってるから甘いんだろうな、と思う。尾崎が言うお坊ちゃま、も確かにそうなんだろうな、と小さく嘆息した。
子供だから意固地になっているんだろう…。
尾崎の電話を無視も…。別に尾崎の事を何と思ってるわけでもないのに出ないのはどうしてか。そのくせ電源を落とすわけでもないのはどうしてか。
携帯を手に尾崎はまたかけてくるのだろうか、と眺めた。
自分からかければそれまでなのに自分からはかけるつもりもないし、今日は電話に出るつもりもない。
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