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追憶の彼方から放されたい 25

 「…もしもし」
 月曜日の夕方尾崎からの電話に仕方なくそれは出た。明日の時間の確認の電話のはずだから仕方なく、だ。
 『昨日何度も電話したんですが?』
 「ああ」
 『…ああ、って…それだけ?』

 「………なにか用事?」
 『いいえ。休みだったので電話しただけですけど』
 休み…。あの女性とデートだったんじゃ?
 『昨日は緊急の事でもなんでもなかったからいいですけど、なるべく俺の電話には出るか、出られないときでもレスしてください。心配する』

 「……別に心配しなくていい」
 『します。とりあえず俺からの電話は仕事だと思ってください。出たあと仕事じゃない内容の時に切る分には文句言いませんから。…で、本題ですが、明日も九時半に迎えに上がりますので』
 「…わかった」
 『それでは明日』
 尾崎は忙しいのかさっさと電話を切ってしまった。

 そして克巳はその切れた電話を見てまたむかっとしてくる。
 何度も電話を昨日は寄越したくせにそれだけか。
 「…ん?」
 いや、別に用件はそれだけなんだからそれでいいはずだ。昨日の電話だって出ようと思えばいくらでも出られたのに出なかったのは自分なんだから。

 またもイライラしだした心にむっとしてくる。
 何を苛立っているのか分からない。
 「はぁ…」
 自分の持て余している感情に溜息を吐き出した。


 「おはよう」
 「……おはようございます」
 翌日迎えに来た尾崎の車の助手席を開けて克巳は乗り込み、小さい声で答えた。
 尾崎の顔は見ないでそっぽを向けたまま窓の外に視線を固定した。
 今日は尾崎と話す気にもならない。

 …そんな克巳の気配を悟ったのか尾崎も話しかけてはこず、無言のまま警察署に着き、いつもの様に署内をなるべく人目につかないルートを辿って尾崎の後ろをついていった。
 まだ一度も尾崎の顔を見ていない。
 …なんで自分はこんな子供じみた事をしているのか、と自分に呆れてくる。
 はぁ、と克巳が溜息を吐いた。

 「…具合でも悪い?」
 尾崎が克巳の何度も吐き出す溜息に気づいたのか後ろを歩いていた克巳に振り返ったのは分かったが克巳は顔を俯けていた。
 「いや。…別にそうじゃない」
 「…そう?」
 小さく克巳が答えれば尾崎はまた前を向いた。

 …なんとなく今日は一日が長そうだな…とまた溜息が出そうになってこくりと克巳はそれを飲み込んだ。
 そして尾崎は今日もついているつもりなのか克巳からちょっと離れた後ろにパイプ椅子を持って腰かけた。
 「おはようございます!」
 そこに唯くんと武川刑事、光流くんまで現れた。
 「あ、江村さん!一昨日はどうも」
 「いや」
 光流くんがへらっと笑いながら近づいて来た。

 「来ちゃいました」
 「江村さん…本当にいいの?」
 唯くんが心配そうだ。
 「いいよ。あ、唯くんこの間はお邪魔様。武川さんも…留守中にお邪魔してすみません」
 「いや、いいよ。唯と仲良くしてやって」

 武川さんは本当に唯くんの保護者らしい。そして大人だ。ちょっと克巳の事を面白く思ってないだろうにそれでも唯くんの事を一番に考えているのは克巳にも分かる。
 「あ、初めまして!武川 光流です」
 光流くんが尾崎に挨拶していた。
 「江村さんの担当の方?」

 「そう。尾崎 祐介です。…武川?」
 「はい。アレが叔父貴で父親がここの部長で…」
 「あ!武川本部長の息子さん?」
 「そうなんです。俺は部外者なんだけど。唯もダチだし、将来警察入るし、無茶言って来ちゃいました。すんません。邪魔はしないんで」

 「いえ。俺は担当なだけなんで別に…」
 自然に克巳の目が光流くんと挨拶している尾崎を見た。
 そして尾崎が克巳の視線に気づいて顔を向け、一瞬視線が合ったが克巳はふいと尾崎からあからさまに顔を背けてしまった。

 「やぁ!光流くんいらっしゃい!」
 そこに熊谷さんも現れた。光流くんとも面識があるらしい。ESPカードを取り出し光流くんがさせられて場は和やかに始まった。
 この間の緊張した雰囲気や克巳が気負っていたのが嘘のようだ。

 「うーん…武川家の人達は普通だなぁ…普通じゃなさそうなのに…」
 「それって失礼」
 光流くんの当たりの確率はやはり10枚中2、3枚という所だった。
 「あとはおとなしく見てるんで」
 そう言って光流くんは尾崎や武川刑事の方に行くとパイプ椅子におとなしく座った。

 「じゃあ本物をはじめようか」
 克巳と唯くんの方を向いて熊谷さんが真剣な顔になり、克巳も唯くんもこくりと頷いた。

 
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