「俺、仕事始まったばかりで大変だったから…」
言い訳するように瑞希が言った。
だって誕生日っていうのは瑞希にとっては捨てられた日でもあるわけで嬉しいものではない。
思わず顔を俯けると宗はそれを知って瑞希の腰を後ろから撫でてくれる。
それに面映くなって瑞希の顔が綻んだ。
「仕事?23?……どこの会社?聞いていいのかな?」
「…二階堂商事」
桐生くんの問いに答えると宗のお兄さんと桐生くんが目を丸くした。
「お父さん知ってるの?」
「知ってる」
お父さん…って社長の事、だよね。
宗のお兄さんは瑞希を見て頷き、宗を見てくっと笑った。
「…なんだよ?」
「別に~?」
宗が拗ねたように面白くなさそうにしてる。
いつも悠然と泰然とした感じなのにお兄さんの前だと弟って感じで可愛い。
思わず宗をじっと見てしまった。
「…何?」
「え?…可愛いな…って」
宗が憮然とするとお兄さんと桐生くんが笑ってる。
「宗が可愛い!…すご~い!心広いし!」
「え?全然広くないけど…」
「そうなの?あ、宇多さん携帯、教えてもらってもいい?」
「え?あ、…うん」
瑞希が携帯を出して番号を交換した。
へへ、と桐生くんが照れくさそうに笑っているのをお兄さんが頭をよしよししている。
「明羅と仲良くしてやって?友達いないから」
「……友達なんて別に必要ないもの」
え?と瑞希は驚いた。
「…瑞希も、人信じられないから…」
宗がくすと笑った。
え?という顔で今度はお兄さんと桐生くんが瑞希を見た。
「…………わけあり?」
お兄さんがくすと笑う。
「まぁね」
でもそれ以上宗は言わない。お兄さんと桐生くんもそれ以上突っ込んで聞いてこないのにほっとした。
「飯食ってくだろ?用意するから」
そう言ってお兄さんが立った。
「明羅はいいから」
桐生くんも立とうとしたけどお兄さんに止められる。
「あ、じゃ、俺…手伝います」
瑞希が立ち上がった。
「いいよ、お客さんなんだから」
「でも、あの…俺、そんなに作れないから…教えて欲しい…です」
宗がお兄さんは料理得意だって言ってたから。
「…そういう事なら。じゃおいで」
宗と同じような低い声。やっぱり宗に少し似てて妙に安心する。
「お兄さんは年、いくつですか?」
宗と離れてるって聞いたけど。
「28。宗と暮らしてるんだろ?料理は宇多くんが?」
「…一応。だけど簡単なものばっかりで…」
お兄さんが色々レシピを教えてくれながら指示されたように動く。
「ん~~~…楽だ。さすがだな」
「そう、ですか?」
よかった、と瑞希は安堵する。嫌われていないようだ。
これして、あれして、と言われるまま二人立っても余裕なキッチンを動いた。
「切って、だけで通じるし!いいな!……ん?明羅?どうした?座ってていいぞ」
むっとした顔で桐生くんがすぐ脇に立っていた。
「…なんで宗と顔突き合せなきゃないの?……すみませんね。俺、怜さんの役立たなくて」
「明羅く~ん?」
お兄さんが慌てたようにわたわたした。
「宇多さん、俺と違って綺麗だし?」
つんと桐生くんが顔を背けるとお兄さんがふっと笑った。
「バカな子だね」
そしてちょんと目の前で桐生くんがお兄さんにキスされたのに瑞希は固まった。
「れ、怜さんっ」
桐生くんの顔が真っ赤で可愛い。
「…いいなぁ…」
瑞希もこんな風に出来たらいいのに。言いたい事言えれば…。
「……何がいいの?」
「え?言いたい事言えるのが」
桐生くんがお兄さんの背中にべったりとくっ付いてまるで自分のものだと主張してるのが可愛い。
「…宗に言えないの?」
「…嫌われたくなくて…」
「あ!わかるっ!一緒一緒!」
「明羅も一人でぐるぐるしてたからなぁ…」
お兄さんが苦笑してる。
「…あのね?出していいみたい…だよ?今だって俺出したけど…怜さん嫌いになってないよね?」
「当たり前だろ。むしろ嬉しいし」
嬉しい?
お兄さんは桐生くんを背中に貼り付けたまま料理を続ける。
「だろ?それだけ俺の事好きって事、だよな?」
「……知らない」
桐生くんが顔を紅潮させるとくつくつとお兄さんが笑ってた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学