「報道はされてはいないんだが…一人容疑者が浮上している」
熊谷さんの言葉に克巳も唯くんも身体を強張らせた。
「ただ、まだ全然何も進んじゃないんだ。まず説明するね」
隠し撮りされただろう写真を見せられた。
年はいくつだろう…?尾崎よりは上か…?そのわりにどこか幼い印象もあるので年齢の見当がつかない。
それにどこか目がイっている感じだ。
「被害者との接点がないんだ。ただ被害者は塾に通っていて死亡推定日も塾の帰りだった。この男は無職。家は自宅で母親と暮らしているがキレやすいらしく母親は怖くて口出しも何もしなかったらしい。以前に警察に相談された事もある。この男がまだ中学、高校の頃だ」
じっと克巳と唯くんも熊谷さんの言葉に耳を傾けていた。
「車もある。母親が買い与えたらしいが…。外出時間は決まっておらずに真夜中でも出かけるらしい。どこに行くかはまだ分かっていない。目的もだ。ただ母親だけでなく元同級生や近所でも何かするんじゃないか、と恐れられていたらしい。これは聞き込みの結果だが…。被害者は塾の帰りに友達と一緒に帰ったが、途中からは一人になる。住宅街を通るらしいが…おかげで監視カメラなんかにもあまり写っていない。この男の自宅から近い距離だ。ただ車はその日乗っていないらしいんだ。だが死亡させてから運ばれた形跡はあるから…まぁ、多分君達に頼らなくともここまで来たらあとは証拠をつきつけるだけなんでもう大丈夫、って事」
なんだ…と克巳が溜息を吐き出すと唯くんも同じくほっとした表情だ。
「早く捕まるにこしたことはないけどね」
にっと熊谷さんが笑った。
「ご遺体が見つからなかったら犯人も捕まらなかった。だからこれは君達のお手柄と言っていいんだよ?この間は随分に気にしちゃっていたからね…」
「でももし捕まるまでにまた別の事件が…て事もあるから…やっぱり気にします」
「うん。でもそんなに二人とも気負う事ないからね?唯くんの前の事件の事も含めるともう二件解決だ。しかも早期に。君達のおかげなんだから自信もって」
反対に励まされる始末だ。
でもよかった、と唯くんと顔を合わせて頷き合った。
「でも残念ながら事件は一件だけじゃなくて毎日起きている状態だ。凶悪な殺人事件だけじゃなくともひき逃げやストーカーとか…。君達に協力してもらうのは謎めいた件が多くなるだろうから自然に大きい件になると思われる。その分精神的にもキツいと思うんだけど…」
「…大丈夫です」
「うん。よろしくね。フォローはいくらでもするから何でも言って」
気になっていた事件が解決の方に向かっていると聞いて安心する。
「さて、今日だけど…今日は差し迫った大きな問題のある件はないから、ちょっと訓練的な事をしてみようか」
やはり地図が出てくる。
「もう解決してる件をいくつかね。状況の写真とか、犯人、被害者の写真、持ち物、どこが境目で特定できるかというのを知りたいんだけどいい?なんか実験みたいで申し訳ないんだけどねぇ…」
「いえ…自分でも知りたいので大丈夫です」
「僕も。…あと…聞きたいんですけど…僕は声が聞こえるじゃないですか。証拠にはならないかもですが、僕が直接犯人とかから声を聞く、とか…」
「君達の身の危険になるような事は基本させないよ?君達の存在は警察内でも表立って公にはしない事だからね。だから直接とかは考えないように」
でもそれだとあまり役立たない気がするよな…と克巳も思う。自分は唯くんみたいに声が聞こえるわけではないから元々役立たなさそうだけど…。
「そんな事させちゃったら武川さんに怒られちゃうよ」
ぶると熊谷さんが震えた。
「当たり前だ。そんな事させるつもりなら連れてこない」
武川刑事が当然だという声で言い放った。
まぁそうだろうな、と克巳も武川刑事の言葉には納得する。大事な唯くんを危険に晒すような事するはずないよな。
「江村くんだってお父さんの事もあるからね…表立ってはまずいでしょう」
「…まぁ…。でも俺的には父親は関係ないんですけどね」
「そういうわけにいかないって」
熊谷さんが苦笑を漏らす。
「いや、どこで目をつけられるか分からないし、江村くん自身も危険から遠ければ遠い方がいいって」
自分から危険に飛び込みたいわけでもないのでそこは克巳も頷いた。
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