ずっと家にばかりこもっていると滅入ってくる。
こんなことなかったのに…どうにも頭の中で尾崎の事が過ぎってしまって克巳の中でイライラが大きくなっていた。
どうして、と思えばまた苛立ち、どうにもいう事をきかない自分の心の中がもどかしい。
何を考えても思っても仕方ないのに。
法要を終えて二日、月曜日になっていたが、警察に行く日は水曜日でまだあと二日ある。
携帯は一度も鳴らない。
それが克巳の普通だ。
イライラしたまま家に籠もっていてもさらに苛立ってくるので外に出る事にした。
出かけてくる、と家政婦に告げて克巳は外に出た。
電車の駅まで歩き大学近くの駅で降りた。
なんで休みなのに大学の近くまで…。
そう思いながらも駅近くのコーヒーショップに入る。
ちらちらと見られている視線を感じて克巳が確認してみれば、同じ位の年の奴等が店内に結構たむろしていて、きっと大学が同じなのかもしれない。それで克巳の顔を知っている奴等も多いのかも…と纏わりつく視線を無視しながら外を眺めていた。
なんでわざわざ大学方面まできちゃったのか…。克巳の顔を知っているのだろう興味津々の視線を受けながら失敗した、と克巳は後悔した。
こそこそと克巳の方を見て話しをしている奴等がいる。話しかけてきそうな雰囲気を感じて克巳は慌ててコーヒーを流し込み、店を出る事にした。
うまくいかない…。
気分転換にと思って出かけてきたのに…。話しかけられるのなんて煩わしいだけで、苛立っている今はそんな相手もしたくはなかった。
どこも行くところもなくつまらないヤツだと自嘲したくなる。
「おまけに失敗だ…」
外に出ると空がどんよりとしてきて雲が厚くなってきた。
このまま電車の駅に行って帰ればいいのに、気分はまだ帰る気にはなれなかった。
そういえば尾崎の部屋が近い…。
どうせ尾崎は仕事でいないだろうしちょっとだけ…。
場所は地図でも確認していたし、と克巳は店の前から離れて歩き出した。
「やばい…か…?」
段々と雲の厚みが増してきてさらに暗くなってくる。このままだと土砂降りが来るのも間もなくなようだ。
小走りになりながら尾崎のアパートのある方に走った。
なんでこんな事しているのだろうか。今だったら駅に向かえばもう降ってきそうな雨に濡れることもないかもしれないのに…反対方向に走っている。
そんな事を思っていたらぽつりと一粒頬に雨が落ちてきて、そしてあっという間にざぁっと降りだしてくると克巳の身体を濡らしてきた。
携帯の入っている鞄は濡れないように胸に抱えさらに走った。
軒先に雨宿りできるような所もなくて、バケツをひっくり返したような雨が降る中、ただ頭の中の地図と照らし合わせて克巳は尾崎のアパートの方に向けて足を動かした。
バカだろ…と自分でも思う。
なんでこんな事してるのか。
頭から雨が滴ってくる。ざあっという轟音がして、足元もぐしょぐしょだ。
暑くて汗をかいていた体が急速に冷えていくのも感じる。
なのに自分は部屋にいるわけでもない尾崎の部屋の方に向かっているんだ。
雨宿りする所もないから…。
そんな言い訳を自分にしながら、だ。
もう全身濡れてない所はない位になった頃やっと尾崎のアパートを見つけた。階段を上がって尾崎の部屋の前のドアに寄りかかってずるりと座り込んだ。
下着までずぶ濡れ状態だ。
コンクリの廊下は屋根がかかっていて広めなので、雨が吹き込んできても濡れることはなかった。…といってももうすでにびっしょりなので意味ないけど。
止むか小降りになるまで待たせてもらおう。
寒くなってぶるりと克巳は身体を震わせた。
すっかり体温を奪われてしまったらしい。それにあんまり走ったりすることないのにけっこう走ったから疲れた。
駐車場に尾崎の車はなくやはり仕事だろう。
どうせいないのだからここで雨宿りさせてもらっても分からないはず。
…この間は尾崎の部屋で寝こけてしまったけど、それがもう大分前の事に思えてくる。
「寒いな…」
夏なのに、雨に濡れた所為で体が震えた。雨が弱くなるまで…少しだけ、そう思いながら膝を抱えて小さく座っていると濡れた衣類が下に水溜りを作っていく。搾れる位濡れてしまったらしいがまさか脱いで搾るわけにもいかないのでただじっと雨を見ながら止むのを待った。
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