「じゃあおとなしく寝てなさい」
お粥を食べた後、またも尾崎のベッドに押し込められた寝室に、髪を上げいつものスーツ姿になってから尾崎が顔を出してそう言った。
「明日署に行く日だろう?このまま今日も泊まっていけば?」
「……え…?」
「ま、それは帰って来てからでもいいか…。とりあえず様子見に昼頃に来る」
「…あ、…はい」
「なにかあったら…具合悪いとか、電話すぐにしなさい。いいね?」
克巳は小さく布団の中から頷いた。
「喉渇いたら勝手に冷蔵庫に入ってるの飲んでいいから。じゃ、行ってくる」
尾崎はそう言って部屋を出て行き、がちゃりと玄関が締まった音がした。
「はぁ~…」
緊張した。
どうして、なんで、こんな事に…。
…って自分が尾崎の部屋の前でダウンしてしまったからだろうけれど…。
尾崎の部屋のドアの前で行き倒れになってたのか…。
恥ずかしい…。
やっぱりさっさと帰ればよかったんだ。
わざわざ雨の中来て…。どうして、って自分でも分からないのに。
尾崎に名前を呼ばれた気がする。意識が朦朧としてる中だ…。慌てたような尾崎の声だった。
少しずつ思い出してきた。
頬を叩かれて尾崎に抱き上げられた。
部屋の中に入れられてすぐに服を脱がせられた…。そうだ。耳に脱がせますよ、という尾崎の声が残っている。
「あ、れ…?」
そのまま風呂に…連れて行かれた…?
冷え切った身体が確か温まってきて…。尾崎がはぁと安心したような溜息を零したのは聞いたような…?
でもその後は何も覚えていない。
自分は一体何をやっているのだろう、と克巳は尾崎の布団の中にもぐりこんだ。
「…尾崎の匂いがする…」
かぁっと体が火照ってきた。
朝目覚めた時、尾崎の腕が克巳の体を包んでいた。
「うわ…」
目の前に顔があったし…声も近くて…。
どこもかしこも尾崎で溢れそうになってくる。
「やばい…」
…尾崎が仕事に行っていなくてよかった。今顔が熱くなっているのは絶対熱のせいではないはず。
帰りたい…でも帰りたくない…。
またしても心の中が複雑に入り乱れる。
「落ち着け」
自分に克巳は言い聞かせた。
尾崎は克巳の担当者だ。だから親切にしてるだけ。なにしろ刑事になりたかったから、…だから、だ。
ドアの前で熱出して行き倒れていたから部屋に上げただけ。女じゃないんだから間違いも起きない。
彼女がいるだろうし。
……自分で思ってがくっとしてしまう。
「ダメだ…」
完全に心臓がイカレてるらしい。
五感の全てがこの部屋にいると尾崎を感じるようだ。
「…バカだな」
小さく呟いて布団の中で丸まった。ちょっとまだ熱のある今だけ…こうしててもいいだろうか…?
まだ微熱があるらしく静かにしていたらまたうとうとと眠くなってきて克巳はそのまま尾崎のベッドでいつの間にか眠ってしまっていた。
頬に誰かが触れている…。
ゆっくり目を開けるとまたも目の前に尾崎の顔があった。
「あ、起きた。…起こしちゃいましたか?」
「……寝てた…んだ…」
「まだ微熱あるみたいですからね」
「…もう…お昼…?」
「過ぎてます」
尾崎の落ち着いた静かな声が心地いい。
…じゃなくて!
半分とろりとしていた意識が覚醒した。
「何か食べれます?」
「…朝のお粥の残りでいい…」
朝に尾崎が作ってくれたお粥を全部食べきれていなかったので、小さく克巳が言うと尾崎はくすりと笑みを浮かべて頷いた。
「ちょっと待ってて」
尾崎の動く音がする。
なんだかそれが恥ずかしい気がするのはどうしてだろうか。
自分からベッドを抜け出し、リビングの方に行った。
「座ってて」
尾崎が声をかけてきて克巳は小さくなってリビングの小さなテーブルの前に座った。
自分の格好も尾崎のパジャマを着せられていてなんだかな、と思う。
尾崎が温め直したお粥を持ってくると克巳の前に置いて、そして額のシートを剥がした。
「食べ終わったらまたつけてあげますから、おとなしく午後も寝ているように」
まるで小さい子供のようだ。尾崎からしたら10近くも年が違うしそうなのかもしれないが…。
黙ってお粥を口に運んでいる間、尾崎も黙ってただ克巳を見ていた。
「……アンタ…昼、は…?」
「ああ、下に同僚待たせてるんで」
「え!」
「克巳は気にしなくていいです。ちゃんと食べて横になったの確認したらまた行きますので」
仕事の途中でわざわざ克巳の確認の為だけに寄ったのか…。
嬉しい、と思っちゃいけないんだろうけれど…。仄かに克巳の表情は緩んでしまった。
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