尾崎がティッシュで後始末して今度こそ静かに寝る。
だが尾崎の腕は克巳の体を抱いたままだった。
どうして…?
ベッドが狭いからだろうか?
そんな事を思いながら克巳は二度も精を放ってしまったからか急激に疲れを感じて瞼が重くなってくるとあっという間にまどろみに意識が沈んでいく。
「克巳…?」
尾崎の呼ぶ声が聞こえたがもう反応できない。
「…おやすみ」
尾崎の小さな声と耳にキスの音が聞こえた。
余計な事を考えもしないで眠ってしまえた事はよかったのかもしれない。けれど、目が覚めてしまい朝になっていた今はどうしたらいいのだろう?と克巳は尾崎の腕が背後からしっかり体に巻きついている腕に冷や汗が出てきそうだ。
尾崎はまだ目が覚めていないのか朝の光りがカーテンの間から射している今もすぅすぅと寝息が後ろから耳元に聞こえる。
身じろぎする事も出来ずに克巳はじっと息を潜めていた。
それにしても…なぜ尾崎はあんな事…。男相手にそんな気になったのか?でも最後まではしてないからやっぱり克巳相手にはセックスは出来ないって事か?
そりゃ彼女がいるんだから出来るわけないし、克巳にしなくたって相手がいるわけだから…。
ずきりと胸が痛んでしまう。
克巳は別にいい。まさか男相手にこんな感情になるなんて思ってもみなかったけれどどこをとっても尾崎を嫌だという思いは湧かない。それよりも触れてもらえ、しかも反応されれば自分でも尾崎はいけるのか、と思えたから。
でも自分の思いは隠しておかなければ…。尾崎はきっとしたくてしたわけじゃないはず。
起きたら尾崎は後悔するかもしれない。男なんかに手を出してしまった、と。
顔は褒められたがどうしたって体は男のものだ。だが躊躇せずに尾崎は克巳に触れた。男としての体の事情も察知したからだろうが…。
はぁ、と小さく溜息を吐くと尾崎がん…と声を漏らした。
「克巳…?…起きてる…?」
「……」
声がすぐ近くから聞こえて克巳が体を竦めると尾崎の腕がぎゅっと克巳の体を抱きしめてきた。
「起きてるんだ?おはよう。具合は?大丈夫そうかな?」
「…お、はよ……だ、いじょうぶ」
びくりとしながら小さな声で答えれば尾崎が苦笑を漏らした。
「昨日は悪かったね…。あんな事…するつもりじゃなかったのに」
蒸し返すか!
黙ってスルーしてくれれば知らん振りするのに。
「…別に」
元々克巳が先に勝手に反応したからだ。風呂場の事がなければ尾崎だってそんな気にもならなかったはず。
起きたのに尾崎の手が離れていかなくてずっと克巳を後ろから抱きしめている。まるで情事の後の朝みたいな感じで気分がおかしくなってきそうだ。いや、少しはそういうコトをした、に入るのか…?
でもキスもなく最後までもしていない。
…だからそういう事なんだ。キスも最後もそれは克巳のモノにはならないんだろう。
「…離せ」
克巳が小さく呟くと尾崎の手が素直に克巳の体から離れていった。
「熱も下がったようだし…今日は行けそう?あ、時間はいつもと一緒です。言ってなかった…」
「…大丈夫だ。時間も分かった」
尾崎が起き上がりベッドから降りれば近かった体温が離れ、急速に体が冷えていきそうな感じがする。
克巳はベッドに半身を起こし、尾崎の出て行ったドアを眺め、きゅっと自分の体を抱いた。
昨日あった事は夢だ。熱があったから…そう思っておいたほうがいい。尾崎だって男相手にもうあんな事などしないだろう。だからといって克巳を無碍にするようなヤツでもないはず。だったらそれでいい。
あくまで尾崎は克巳の担当者。それを貫けばいいんだ。
…でも…心が苦しい。
尾崎の熱すぎる位の熱をもう知っている。包まれる腕も。手の肌の温度も。本当に最後までは知らなくともそんな経験が初めてだった克巳の体には強烈に尾崎を刻み込まれた。
…忘れなきゃないのに…。
いや、尾崎は忘れたがるかもしれないけど、克巳は忘れなくてもいいのか?
多分もう自分の身ににこれ以上の事が起こるとは考えにくい。
女性相手なんて考えられないし、他の男なんてもっと考えられない。
自分が改めて尾崎だけを欲しいと思っていた事に愕然とする。
ずっと否定してきてたのに…さらに気持ちは育ってしまったらしい。
はぁ、と克巳は溜息を吐き出して頭を抱えた。
「克巳?やっぱり具合が…?」
「いや…大丈夫」
尾崎が着替えを手に部屋に入ってきて克巳の横に洗濯してくれた衣類を置くと、克巳の額に手を伸ばして来た。
「大丈夫だ!」
思わずその手を振り払った。これ以上触れられたら期待してしまいそうになる。
…諦めなきゃないのに…。
克巳は顔を俯けた。
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