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追憶の彼方から放されたい 39

 ずっと心許ない格好だったから自分の服に着替えをしてやっと息がついた気がする。
 どこかぎくしゃくした雰囲気のまま尾崎が用意してくれた朝食を食べ、ニュースを見て、洗面用具も借りて身支度を整え尾崎のアパートを出た。

 寝起きの尾崎の下ろした髪型が好きだ。胡散臭さがどこにもないから…。
 どうして髪をセットしてスーツを着た方が胡散臭く見えるのか不思議で仕方ない。
 ちらと運転する尾崎を盗み見た。
 尾崎はずっと難しい表情をしていたし、克巳も色々な事を考えすぎて話しかける事も出来ない。
 ちょっとした過ちだったのだ。尾崎にとっては。

 無言のまま署に着くと、丁度唯くん達も到着した所だった。今日も光流くんが一緒らしい。
 「オハヨーゴザイマス。今日もお邪魔しにきちゃった。暇なんで」
 「おはよう。光流くんは邪魔って事ないよ」
 ぱっと見は大人びているのに屈託のない表情にはやはりまだ高校生なんだとほっとする。

 「唯くんおはよう」
 「おはようございます!」
 唯くんが可愛くはにかむ。その表情にはいつも幸せ感がいっぱいで克巳まで癒されそうだ。
 満たされているという思いが表情に出ていてそれが克巳にも伝わってくる。

 「江村さんにもお土産買ってきたんだ!後で受け取ってくださいね!」
 嬉しそうな笑みを浮べながら唯くんが言ってきた。
 「俺に?」
 「うん!あの…僕、そんな仲いい人って少ないし…。出かける事なんてなかったからお土産買うのも楽しくて…」
 「…ありがとう」
 唯くんを見ていると克巳も自然に顔が綻んでくるのだ。

 そのまま5人でいつもの会議室みたいな部屋に向かった。
 そしてすぐに熊谷さんもやってくる。
 「すみません、今日はちょっと早めに終わらせていただきたいのですが」
 「ん?どうかした?用事?」
 尾崎が珍しく熊谷さんに口を開いた。いつもは黙って傍観が常なのに。

 「いえ、克巳が病み上がりなので」
 「あ、そうなの?」
 「え…あ……」 
 克巳のほうを見て熊谷さんが確認を取ろうとした。
 「熱が昨日まであったのでまだ無理させたくないので」
 「了解。体調悪くなったらすぐに言って?」

 「………はい」
 大丈夫なんだけど…と思いながらも折角の申し出に頷いた。
 「ええ!大丈夫ですか!」
 唯くんと光流くんが代わる代わる克巳を気遣ってくる。
 「大丈夫だよ。ずっと寝てたからもう熱もないし…」
 普通にそんな事で心配される事などない克巳には二人の反応が少しくすぐったい感じだ。

 「今日は大きい事件もないしね。ここの所静かだからどかんと大きいの来ないといいんだけどなぁ…というわけで、今日は逃走中の指名手配犯探しにしようかな、と思うんだけど、いい?それだと一応写真とかあるし。ああ、そういえば似顔絵でもいけるのかってとこも知りたいな」
 熊谷さんの言葉に唯くんと頷いた。

 分かったのは写真だと確定しやすく、似顔絵だと難しいという事だ。
 「人探しとか写真あれば絞り込めるんだなぁ…。探偵とかできそうね」
 熊谷さんがふむ、と頷きながら呟く。
 だが、克巳はどうも集中できないでいた。どうしても頭を過ぎるのは尾崎の事が多くていつもよりも疲れた感じだ。

 「江村くんは疲れたみたいだね。ちょっと早いけどお昼にしようか」
 午前中で見たのは三件。
 二件は写真ありだったが、一件は似顔絵だけで、その一件はどうしても分からなかった。唯くんも同じくだった。
 はぁ、と克巳が浅く溜息を吐き出すと唯くんが心配そうに覗き込んできた。

 「大丈夫…?」
 「ああ。ちょっと疲れた気はするけど体調が悪いわけじゃないんだ」
 あくまで自分の中の問題なのに心配をかけてしまって苦笑してしまう。
 「…横になったほうがいいか?」
 武川刑事も声をかけてきた。…そんなに具合悪そうなのだろうか…?そうじゃないんだけど。

 「いえ、大丈夫です」
 軽く頭を下げて答える。
 「…いや、休んだ方がいい。昨日は一日寝ていたんだから。克巳」
 尾崎が克巳の背中に手を添えた。
 「その方がよさそうだな」
 武川刑事も唯くんにも頷かれて克巳は尾崎に促されるまま部屋を出た。

 「仮眠室で少し休むといい」
 そう言われて連れて行かれると狭いベッドに横になった。
 大きく溜息が出て、自分でも気づかなかったが確かに体はまだ本調子ではなかったらしいと自覚した。
 尾崎が昼ごはんを貰ってきてくれてそれも少し残してしまい、横になった。

 尾崎がついていてくれる中少し目を瞑る。
 こんな少しの時間でも尾崎は克巳の為だけにここにいるんだ、と思えれば少しだけ嬉しい。そんな気持ちが恥かしくて尾崎に背を向けて克巳は横を向いた。

 
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