「克巳、起きられそう?」
「…え?あ…ちょっと寝てた」
尾崎の声にはっとした。うとうととしてしまっていたらしい。
「……午後はなしにしてもらうか?」
「いや、大丈夫」
ゆっくりと起き上がる克巳を尾崎が目で追っているのを感じた。それだけでもざわりと克巳の心が落ち着かなくなる。
顔に出ないようにと尾崎の方を見ないように気をつけた。
「…行こう。もう時間なんだろう?」
「…ああ」
尾崎は黙って克巳についていてくれた。
結構面倒見もいいし、それになんでもできるらしい。料理もさっと作っていた。洗濯も。
何も出来ない克巳とは大違いだ。
そんなのを自分でするという概念もなかったんだから、尾崎がばかにしてお坊ちゃん、というのも頷ける。
自分は普通と思っていたけれどそうでもないのだろうか?
そういえば唯くんだって自炊しているんだ。
…高校生なのに。
「…何を考えているんです?」
「ん?」
人気のない廊下を尾崎と歩いていると尾崎に声をかけられた。
「…尾崎はなんでも出来るんだなって…思っただけだ」
「なんでも?」
「料理とか…」
「ああ…キミは出来なくても普通でしょ。家政婦さんが家にいる生活でしょうからね」
やぱりバカにされているのだろうか?大学生にもなって、と?
「キミはおとなしく世話をやいてもらってればいいんです」
尾崎の声が柔らかくなった。
…バカにしてるんじゃないのか?
「いくらでも優しく世話したげますよ?」
…やっぱりからかわれているらしい。克巳はつんと顎を突き出して足早に元の部屋に向かった。
「江村さん…大丈夫?」
「大丈夫だよ」
唯くんが何度も克巳に確認してくるのが申し訳ない。
体調の事だけでなく尾崎の事でぐるぐるしてたというのが実は大きいのにと思うからだ。
いくら捜査について責任がないとはいえ、そういったプライヴェートの事情を引きずっちゃいけないだろう。
午前中の逃走犯の所在についても場所は分かっても細かな事まで分かるわけでもなく、結局はその近辺を聞き込みしないと捕まるまでは至らないのだ。
役に全然立っていないと思う。
午後も同じような事をしたが、克巳の体調のせいで早めに終わり、解散になって尾崎に送られ、熱が出てからやっと自宅に帰る事ができた。
「今日はもう後は休むように。明日とかも無理はしないで」
「…わかった」
確かにちょっと疲れて体がだるいのは本当なので頷いた。
「何かあったらいつでも電話してください」
尾崎の口調が丁寧なものになっている。
「…ん」
顔が見られない。どうにも尾崎と二人きりという空間に緊張してしまうが、尾崎に克巳の心は分かられていないはず。
「…世話になった…。ありがとう」
「いえ。いつでもキミだったら構いませんので」
尾崎がくすりと笑みを漏らしているのが分かったが尾崎の顔は見られない。
…どういう意味だ?
彼女いるんだろ、と言おうかと思ったけれど肯定されるのが怖くて結局口にできなかった。
「今週署に行く予定は今日だけであとは来週ですから今度の火曜までにしっかり風邪は治しておいてください」
「…分かった」
克巳の自宅前に着いて尾崎がとんと克巳の肩に手を触れ、克巳はびくりと過剰な反応をしてしまう。
「ああ、…すみません」
びくりとした克巳に尾崎が謝りゆっくり克巳から手を離した。
…もしかして克巳が嫌がってる、とでも思ったのだろうか?違う、と言おうとしたけれど、言ってどうなるのか。触っていい、というのもおかしい。
結局そのまま克巳は無言で車を降りた。
「本当に世話になった…。迷惑をかけてすまなかった」
「迷惑じゃないので…。構わないと言ったでしょう?嘘はつかない、と言ったはずです」
「…そうか」
どうしてこう自分は可愛くない事ばかり言ってしまうのだろう?唯くんたいに可愛くなれればいいのに。
いや、別に尾崎に可愛さを求められているわけでもないんだから関係ないか。
「克巳?中に入って」
「あ……ああ」
じゃ、と小さく尾崎に頭を下げてインターホンで敷地内の門を開けてもらって中に入ると尾崎がそれを見て車をだした。
門の中から克巳は遠ざかる尾崎の車を見送った。
昨日は一日夢みたいな時間だった、
そう…夢だったんだ、と思えばいい。それなのに体には尾崎の熱がしっかり刻まれている。
見えなくなった車の後ろをいつまでも見ていた事にはっとしてそそくさと克巳は家の中に入った。
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