「暇…」
何もやる気も起きなくて一日だらだらとしてる。
雨に打たれたせいでひいた風邪もすっかり良くなっていたけど、何もやる事がない。
いや、課題とかあるんだけど、やる気が起きないだけだ。
こういう時友達でもいればどこか遊びに行ったりするのだろうか?
唯一友達と言っていいような存在は唯くんだけだ。
「…うーん…」
あまりにも暇で克巳は電話をとった。
『もしもし!江村さん、具合は大丈夫ですか!?』
「もう治ったよ。この間は心配かけちゃったみたいでごめんね」
『よかった!じゃあ出かけても大丈夫?今から光流も来るんだけど、江村さんも出てきませんか?…よかったらだけど』
「行く」
すかさず克巳は答えていた。
電話を切って出かける用意をして階下に下りていく。
「ちょっと出かけてくる」
「この間の方の所ですか?」
「いや、違う…」
「何かお菓子でも持っていかれたらいかがですか?」
家政婦に言われて克巳は頷いた。
親戚からのいただきものも多いのでその中から有名菓子店のクッキーを貰った。
途中でコーヒーも買って行こうか。そうしたら唯くんがわざわざ動かなくてもすむだろう。
乗り換えの駅でコーヒーを三つ買って電車に乗った。
唯くんの家の電車の駅で降り改札を出たら知っている背の高い子がいた。
「光流くん」
「あ、来た」
「もしかして待っててくれた?」
「そう。唯から江村さんも来るってメール来たから。それコーヒー?持ちますよ」
さっと光流くんが克巳が紙袋を取り上げた。
克巳よりもよっぽど体が出来上がってる。格闘技にしているらしいのでそれも当然だろうか。
まだ全体的に細い印象はあるけれど、もっと大人になれば武川刑事や尾崎みたいながっしりした男らしい身体になるだろう。
「風邪もうよくなったみたいでよかったです。この間はしんどそうだったし」
「そう…?そうでもなかったんだけどね…。前の日はほとんど一日中寝っぱなしだったけど」
光流くんは話しやすい。変に構えてないし、さらりと力の事も聞いてくるし、隠し立てなく話せる相手というのは貴重だ。
さすが唯くんの友達だ。
マンションのエントランスで光流くんが部屋の番号を押すと開けるね、と唯くんの声。
高校一年生二人なのに出来た子達だな、と克巳は自分がアンバランスな事をちょっと反省してしまう。確かに尾崎に言われた様にこの子達に比べたら自分はアンバランスだと納得してしまう。
だからといってどうしたらいいか、なんて分かりもしないのだが。
「いらっしゃい!」
「お邪魔します。ごめんね急に」
「いえ!でも良くなってほんとによかったです」
やっぱり唯くんは可愛いな、とつい克巳の顔が綻んでしまう。
「やーらしー!唯ってばまたキスマークついてるし!」
「え!」
ばっと唯くんが首を押さえて真っ赤になっている。
「前はそんなんつけてなかったのに」
「……今夏休み中だから」
「犯罪なのにねぇ。呆れるよ。江村さんもそう思わない?いい年してさぁ…もう30なのに高校生に夢中ってどうなの?」
はぁ、と光流くんが溜息を吐き出している。
「いいと思うけど?だって唯くんが幸せそうだしね。唯くんが嫌だって言うなら阻止するけど」
「まぁねぇ~。ゴチソウサマ、勝手にやってろバカップルめ、って感じだし」
「…ぅ…」
「それはいいけど、ハイ、これ江村さんからだよ!」
光流くんがコーヒーを出し、克巳は菓子の袋も出した。
「これも。家にあったやつ持ってきただけだけど」
「ごちそうさまです」
唯くんが光流くんにからかわれて顔が真っ赤のままだ。
「江村さんは?」
「ん?何が?」
光流くんが克巳の頭よりも高い所から克巳に話しかけてきた。
「尾崎さんと」
「……は?」
思わず目が点になる。
「付き合ってんじゃねぇの?」
「違う!」
「あれ?そう…?でもあの人に俺睨まれるんだよねぇ」
「…はぁ?」
「俺行くと必ず何でいるんだコイツ、って顔で睨まれて、江村さんと話してるとぎりぎり睨まれてる」
あはは、と光流くんが笑っている。
「面白いからわざと江村さんに話しかけちゃう」
「…光流…」
唯くんが呆れ顔だ。
「唯には睨まないけど。それでも面白くないって顔はしてるよね。どっかの誰かさんと一緒!」
「…光流の身内だろ」
「そうだね」
武川刑事と、って事…?確かに克巳が唯くんと話してると武川刑事は面白くなさそうにしてるけど…。
「…え?」
「あれ?江村さん全然気づいてなかった?」
そんなの全然知らない、と克巳は頷いた。
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