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追憶の彼方から放されたい 42

 「唯は思わなかった?」
 一人掛けのソファに光流くん、克巳が座り、広いソファには唯くんが座り、克巳の持ってきたお菓子を開けてコーヒーも出してそれを口に運びながらの会話だ。
 「なんとなく…。尾崎さんは江村さんが好きなのかなぁ、って」

 「は?」
 「だよね!」
 克巳がきょろきょろと唯くんと光流くんを交互に見てしまう。
 「いや、でも…尾崎には彼女いるし…」
 小さく克巳が言うと二人がえ!と聞き返してきた。

 「まじで?おっかしいなぁ…」
 「それ、…江村さんは尾崎さんに聞いたの?」
 「いや…違うけど…。店に二人でいるの…見た」
 「……違うんじゃない?」
 光流くんがコーヒー啜りながら断言する。
 「だってあの目さぁ~…俺の物に手出すな、って感じよ?」

 どんな目…?
 かぁっと克巳は顔が熱くなってきたのを感じた。
 「あら…?」
 じいっと光流くんが身を乗り出して克巳の顔を見た。
 唯君もじっと克巳を見ている。

 「な、何?」
 「いや…江村さん…って…チョー可愛い!」
 「…うん」
 「いっつもは綺麗!美人さんなのに…っていうか…江村さんも尾崎さん好きなんだぁ?」
 「ち、ちがっ!」
 「そんな顔して否定されてもねぇ…」

 「でも!本当に見たんだ!」
 むきになって克巳が否定するけれど、どうも分が悪い。
 「仕事じゃないの?」
 「休みの日だった!たまたま見かけて…遠くからだったけど…」
 「でも本人に確かめたわけでもないんでしょ?」
 「…そうだけど…」

 「…っていうか、本当に江村さん尾崎さん好きなんだね」
 「そ、そうじゃっ」
 光流くんにしみじみ言われてなんで高校生の子にこんな!と焦ってしまう。
 「告白しちゃったらいいのに」
 「するか!」

 「…光流って人の事にホント楽しそうだね」
 「楽しいねぇ」
 はぁ、と克巳は頭を抱えて溜息を吐き出した。
 「何か協力する事あったらいつでも言って?」
 「ない」
 すかさず克巳が返すと光流くんが笑ってる。

 「いい!江村さんっていいね!」
 何が、どこが、いいのか知らないけれど、光流くんのおもちゃ扱いに確定したらしい。
 「全然年上に見えない」
 「悪かったね。自覚はあるよ」
 不貞腐れて言えばますます笑われた。
 「うわぁ~…唯とはまた違うカワユさだわぁ。これで三つ上ってあり?」

 「………」
 「もしかして江村さんも恋愛経験なし?」
 「…ないよ」
 諦めて暴露すればだよねぇ、と納得される。それもどうかと思うけれど本当なのだから仕方ない。
 「どうして尾崎さんなの?」

 唯くんが不思議そうだ。その気持ちも分からなくはない、とか思うのもどうなんだろう…と自分も思うが、そう思ったって勝手に気持ちが反応してしまうんだから救いようがない。
 「あの!最初はちょっと…って思ってたけど、最近はそうでもないから…」
 唯くんは尾崎は苦手と言った事を言ってるんだ。
 「最近?…そう?」
 「うん。ちゃんと江村さんの事見てるって分かるし」
 「ちゃんとっていうか、尾崎さんって江村さんしか、見てねぇじゃん」

 「……は?」
 「江村さん分かってねぇんだ?」
 ぷっと光流くんに笑われる。
 「そういや江村さんはあんまり尾崎さんの事見ないよね。僕は航さん見ちゃうけどなぁ…」
 だって、それは見ないようにしてるから。見たら落ち着かなくなるから。

 「唯はそれでいいんだって。叔父貴無視しちゃったら大変よ?……おしおきが」
 ぶふっと光流くんがふき出すと唯くんがばしばしと光流くんの腕を叩いてる。
 「でもさ、本当に女といたってだけで彼女とは限らないでしょ?」
 「…それはそうだろうけど…。でもいいんだ」

 「ええ!どうして?」
 自分から尾崎の関係をどうかしようなんて思ってもいない。
 こんな自分の気持ちがいう事きかない位なんて怖い位だ。
 「…臆病なんだよ」
 小さく克巳が呟くと光流くんが真剣な目で克巳を見ていた。
 「恋してりゃ誰でも臆病でしょ」

 「…そうなのかな…?」
 「そうでしょ。気持ちなんて目に見えるものじゃないし。お互いを信じる事しか出来ないからね」
 「…ああ…そうかもね」
 克巳も頷いた。
 「江村さんはどうしたいの?」

 「どう…も…考えた事ない」
 だって尾崎には彼女がいると思ってたし。
 「…無欲な人なんだねぇ…」
 光流くんにしみじみ言われてまた頭を抱える。
 だから!どうして自分の方が恋愛相談みたいになっているんだ?
 
 
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