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追憶の彼方から放されたい 43

 でも少しはすっきりした気もする。
 ずっと一人で鬱屈していたから吐き出せたのがよかったかもしれない。
 …相談相手が高校生というのがちょっと恥ずかしいが。
 光流くんは切り替えが早いのか、そこから克巳と尾崎の事には一切触れなかった。なるほど、いいヤツと唯くんが言うのも納得する。

 友達なんてほんの小さな頃以来だろうか…。まだ自分のどこが変なのか分かっていなかった位の。
 小学校あたりにも友達になりたがっていたのもいたが、それは克巳とというよりは家とという感じ。中学校位からはまれに告白してくるのも出てきて、それは友達目的じゃなかったが。

 男を好きとかありえないだろ、と頭からその時は否定していたが、今はそうでもない。
 唯くんを見てもそうだし、男だろうが好きな人がいるってことは人らしいと思えるから。自分はそんな存在などなかったし、やはり人としてどこか欠陥があるんだ、と思っていたが…。

 はたして尾崎を好きなのかと問われたら自分でも自信はないけど…。でも尾崎が女性といる所を見た時に嫌な気持ちになったんだからそうなんだろうな…とは思う。
 「…蒸し返すようで悪いんだけど」
 唯くんも嫉妬とかするのだろうか…?いつも幸せそうに、笑っているように見えるけれど…。

 「…唯くんも嫉妬…とか…することある…?」
 「あります」
 唯くんが自嘲の笑みを浮べて頷いた。
 「心が真っ黒になるし…すっごく嫌なヤツになっちゃう」
 「…唯くんが…?」

 「うん…」
 「江村さん、言っちゃなんだけど叔父貴ってさいってーのヤツだったからね」 
 「…え?」
 唯くんが苦笑を漏らした。
 「最低?」

 「そうなの。唯限定でどうにか…だけど、やっぱ江村さんとかにもイライラ見せるし、まぁその片鱗見えるよね。ただ、ちゃんと唯にとっての特別なってのは分かってるから我慢してるんだろうけど。すみませんねぇ…いい年した叔父貴がいっつも不躾で」
 「いや、全然。唯くんが大事なんだろうな、とは思うけど。別に嫌だとは思わないから平気だ。それに武川刑事はちゃんと俺がそういう意味で唯くんを好きなわけじゃないって分かってるだろう?」

 「分かってるけど、江村さんは唯にとって特別だから面白くないんだよね。唯ってばどうなの?」
 「え?…江村さんには悪いんだけど、ちょっと嬉しい。それにそういう航さん可愛いし」
 「出た!可愛い」
 光流くんが呆れ、克巳は武川刑事を可愛いという唯くんに目を瞠った。

 「ね、江村さん、呆れるでしょ?外見じゃそう見えないだろうけど、実体は唯の方が大人で中身はただのバカップル」
 「違うよ!」
 「じゃ、割れ鍋に綴じ蓋」
 ぷっと克巳はふき出してしまった。
 「ほらー!江村さんに笑われちゃった!」

 「いや…ごめん…」
 「いいですけど。…あのね…航さんは全部黒い所も出していいって言ってくれる。それ位で嫌いにならないって」
 「…そうなんだ…?」
 「…はい」
 嬉しそうにはにかむ唯くんは綺麗な笑顔で頷いた。

 唯くんが嬉しい時も不安な時も武川刑事はずっと唯くんを大事にしていくのだろう。
 それが唯くんの自信にもなっているみたいに見える。たしかに信じられる人がいるという事はそうかもしれない。
 克巳も今は以前に比べてだいぶ変わったと思う。
 力の事を知っても変わらない人がいる。それがわかっただけで。

 そして役に立つのかもしれないのだから自分が出来る限りの事はしたいとも思う。
 そんな風に思えるようになったのも、尾崎に声をかけてもらわなかったらなかった事だ。
 今は本当によかったと思える。
 自分の力の事もこんな風に受け止める事が出来るようになるなんて思ってもいなかった。

 しかし、唯くんで嫉妬する事があるのなら克巳も尾崎の事を気にした事がわかる。
 分かるけど、分からないのはなんでその相手が尾崎なのか…。
 「…なんで尾崎なんだろう」
 それでなくとも母親の再婚相手の息子という面倒さなのに。

 「それは僕も思う!どうして?江村さんならもっと他にいい人いそうなのに…」
 唯くんは今はそれほど苦手ではないと言ったのにそんな事を言った。
 「どうしてだろうね…。自分でも分からない…」
 克巳も苦笑してしまう。それでもやっぱり頭の中を占めるのは尾崎なんだ。

 
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