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追憶の彼方から放されたい 44

 それから光流くんはゲームして、克巳は唯くんの勉強を見て、あとは一緒にゲームしたりして時間を過ごし、どうにも高校一年生と同じ精神年齢か、とも思うがそうかも、と早々に諦めていたので楽しく時間を潰した。
 色々な経験値は二人の方が上かもしれないとも納得してるので、別にいいのだが。
 夕方になって唯くんの邪魔になるだろうからと光流くんと帰る事にする。

 「また来てくださいね!」
 「唯くんが外に出ていいなら家にもおいで、って言いたいとこだけど…」
 「あ!俺は江村さんち行ってみたい!絶対立派そう!」
 光流くんは克巳の背景も知っているらしいが、そこにはただの純粋な好奇心だけしか見えないのでかえって潔い。

 「古い家だけどね」
 「…行ってみたいけど…」
 唯くんも興味はあるらしい。
 「だって…僕友達って光流だけだし、光流んちしか行った事ないから…」
 「機会があれば、かな…。どうせ俺も暇だから唯くんが気が向いたらいつでも言って?」

 「…はい」
 ぱっと唯くんがにこやかに笑った。
 「お邪魔したね」
 「こちらこそ!ごちそうさまです!」
 高校生二人は甘いものも好きなのか克巳の持ってきたお菓子をぺろりと平らげていた。
 そして光流くんとマンションを後にして一緒に帰りの電車の駅に向かう。

 「唯くんはご飯の用意とか家の事もやって偉いよね」
 「まぁねぇ。俺にはできない。江村さんも?」
 「出来ないね」
 克巳が頷く。
 「…尾崎も料理とか出来るんだ」

 「へぇ…意外だ。出来る男は料理も出来るのか…。なにげにうちの叔父貴も出来るんだよね。俺もちょっとやっとこうかな…。イマドキの男のモテ要素にもなるよね」
 「…光流くんは健全だよね」
 くすりと笑ってしまう。
 「江村さんの表情も随分くだけてきたよね」

 「そう、かな?」
 「そ。ガキだけど遊んでください」
 「…むしろ俺の方が遊んでもらってる気がするけど」
 「あはは!相談もいつでもOKですよ!」
 「……なんだかね。高校生に相談って…」
 「でも絶対江村さんよりは経験してる!」
 「…だろうね」

 光流くんがもてないはずはないだろうからそこは頷く。
 そのまま一緒に電車に乗って乗り換えの駅で別れた。
 家で一人で燻っていた気分が少し晴れて二人に感謝したい位だ。自分の中だけで外に出せなかった気持ちが出せたことで心が軽くなったような気がした。

 別に尾崎に彼女がいようがいまいが自分の気持ちは告げないつもりだ。言ってどうなるなんて思ってもいない。
 だが体にはしっかり尾崎の熱が刻まれていて夜になると思い出してしまう。
 すっぽりと背中から抱きしめられる腕も肌に触れた手も、耳元に囁かれた熱っぽい声も。
 思い出すだけで体に熱が籠もってしまう。

 忘れようと思っても無理な事。思い出にしてしまえばいいのだろうが、それもまだ生々しくて無理だ。
 尾崎のアレをこすり付けられ、後ろで熱い息を漏らしていたのさえも思い出してしまえば体の熱が治まらなくなってくる。
 克巳で勃ったならば少しは…なんて甘い期待を持ちそうになって頭をふる。
 違う。そんな事望んでない。

 そう自分に言い聞かせている時点で期待しているのかも…だ。
 それに光流くんと唯くんがあんな事言うから…。
 まるで尾崎が克巳を武川さんが唯くんを見るような目で、と言わんばかりの言い方をするから…。
 克巳は自分の顔を見られたくなくて尾崎を見ていなかったが…あんな事を聞いたら確認してみたくなる。でももしそれを見たら克巳はどうしたらいいんだ?

 …分からない。
 だって…そんな事を言われても尾崎本人から何かを言われたわけでもない。キスだってされたわけでも、最後までされたわけでもない。
 あの時、する気だったら最後までしたはずだ。
 自分は抵抗なんて一つもしていないんだ。あのまま尾崎がする気だったらきっと克巳は受け入れたはず。

 でもしなかった…という事は尾崎だって最後まではする気がなかったという事だ。
 たまたまあそこに克巳がいたから…だろう。尾崎の相手にはならないだろうからあんな事をしたんだ。
 でもあれだけでも克巳にとっては初めての事で、しかもどうにもいう事をきかない自分の心の中は尾崎を求めていて、その相手にあんな事をされてしまったのだから思い出してしまうのは仕方ないはず。

 でも…この苦しい思いをどうにか抑えたい。
 はぁ、と克巳は自分の部屋に着くとベッドでうつ伏せになって熱い溜息を吐き出した。
 
 
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