やっぱり家にいると気持ちが燻ってしまう。
この自分でも持て余してしまう気持ちには本当に滅入りそうだ。
どうしてこう勝手にぐだぐだと考えてしまうのだろう。
どうして尾崎の事を考えてしまうのだろう。
唯くんと光流くんに聞いてもらって少しはすっきりしたと思ったのになんだかかえってひどくなっている気もする。
外に出る気はなく午前中から家で燻っているのは健康的じゃないと思うが、何もする気も起きない。
今日は日曜日。
その間尾崎からは連絡もなく、克巳からもしない。
用事もないのだから…。
携帯を手に眺めていたら電話がかかってきた。
「あっ」
相手は尾崎で心臓がどきりと跳ね上がった。深呼吸を一度してから電話をとる。
「もしもし」
『今日は用事何かあります?』
「…別にないけど」
『じゃいいですね。出かけませんか?…と、誘っておいて申し訳ないんですが、途中まで出てこられますか?今からちょっと外で人と会う約束があるんですが、コーヒーショップなのでそこまで出てきてもらえると助かるのですが。迎えに行ってもいいけど、ちょっと何時になるか時間がはっきりしなくて…』
「…暇だし…別にいいけど…」
どきどきと心臓が鳴り出す。
『じゃあ店に入って待っててもらっていいですか?終わったらどこかに行きましょう』
「……ん」
小さく克巳が頷くと尾崎が電話口でくすりと笑った気配を感じた。
それから場所を聞けば前に尾崎を見かけたコーヒーショップでつきりと心に刺さっていた棘が痛みを訴えた。
尾崎の彼女じゃないかと克巳が思った相手と会うのだろうか?唯くんや光流くんには彼女とは限らないと言われたけど、克巳だって尾崎と何かあるわけでもないのだ。
「…分かった。じゃあ…少ししたら出る」
『誘っておいてすみませんね。どこか行きたい所でも考えていてください』
どこか、って別にどこもないけど…。
時計を見ればもうすぐ10時。どうやら尾崎は10時に約束しているらしく、克巳は用意を済ませて家を出た。
ドキドキの種類が複雑だ。
電話を貰った時は素直に嬉しい気持ちになったけど…、誰かと会うという尾崎の言葉に不安がなくもない。
それでも出かけましょうと誘ってきたのはその相手じゃなくて克巳なのだから…。
はたと前の時も電話が来たんだったと思い出す。
あの時も出かけようと誘うつもりだったのだろうか?でも出かけようというのも克巳が友達もいないで出かける用事もないと言ったから、そのながれで尾崎が連れて行ってあげると言ったのであって、克巳の事を知っているから哀れんで、なのかもしれない。
いや、今は余計な事考える必要はない。
克巳は気が急くまま店に向かい、店にそろりと入ると店の中を見渡した。
…いた。やっぱり前に見た女性と一緒だ。
ずきりと心が痛みを訴えたが、現れた克巳に尾崎が気づいて目で空いている隣の席を合図する。尾崎の向いに座る女性は俯いていて顔も見えない。
克巳はカウンターでコーヒーを頼み尾崎が目で合図した席に座った。
尾崎と女性が座る席から衝立を隔てた隣の席だ。
尾崎の静かに話す声は言葉の切れ端しか聞こえてこない。
でも…。雰囲気が…。
あれ…?と思いながら克巳は神経を尖らせた。
被害届を、とか聞こえた。
…という事は、仕事の一環…?
でも尾崎の格好が仕事用ではない。髪は前髪が下りているしジーパンだった気がする。
衝立があるので姿を確認する事ができないけど…。
光流くんと唯くんが言った通りに彼女じゃなかったのだろうか…?
でも…それでもキスもしなかった位だし…。
自分に都合いいように考えてしまいそうになるのを必死に堪える。
少しは克巳は尾崎の中で特別になっているのではなだろうか、なんて甘い事を考えてしまいそうだ。
顔が仄かに赤らんでいる気がする。
期待なんてしちゃいけないのに…。
「とにかく悩んでいる位なら警察に届けた方がいい。私に相談されても私が動けるわけでもないですから。届け出るなら私の方からも所轄の方に口添えはしますので」
「…はい」
少し口調のきつくなった尾崎の声が聞こえてきた。
私、なんて言葉を聞いた事もなかったのでこれは本当に彼女でもないらしいと克巳は顔を俯けた。
嬉しそうになる顔を見せちゃいけないだろう。
嬉しいと思う事が間違っているし、だからといって克巳の事を尾崎がどう思っているかなんて分からないのに。
それでも尾崎が休みの日にわざわざ誘ってくれたのは本当なのだ。
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