あ、れ…?
克巳の家まで送ってくれるのかと思ったらどうも違うらしい。
「尾崎…?」
「うちに行きますけどいい?」
「あ、……うん」
なんだ、帰るんじゃなかったのかとほっとして小さく頷いた。
「あのね…」
尾崎が信号で止まると頭を抱えた。
「どうしたんです?なんか今日のキミはやたら可愛いんですけど」
「…は?」
「どうやら自惚れじゃなさそうな雰囲気なんで今日はキミを口説き落としますんで」
「………は?」
「一応ね、色々考えたんですけどね…。どう考えてもキミを前にすると抑えも利かなくなるし無駄な我慢になるので止めました。着くまでに覚悟決めといてください」
「……え…?」
言われた事を反芻して克巳の頭が混乱する。
どういう事だ…?口説く…って…覚悟って…?
克巳に自分で考えろ、と言っているつもりなのだろうか、尾崎はそれ以上何も言わずに車を走らせ尾崎のアパートに向かっている。
大学の傍を通りすぎればもうアパートはすぐ近くだ。
「ちょ…待って」
「待ちません」
克巳の制止に尾崎が答える。
だってまだ頭の整理がついていないのに。
何が、どう…と頭の思考が動揺している間に車は尾崎のアパートに着いてしまった。
「下りて」
「あ…でも…まだ…」
克巳はうろたえるが尾崎はさっさと運転席を下りると克巳の乗っていた助手席側に回りこんでドアを開け克巳の腕を引っ張った。
「待ちませんよ」
尾崎は屈んで克巳の耳元にそう囁き克巳の肩を抱きかかえるように掴んで車から下ろされた。
どうしたら…?何が…?
頭が混乱して目が回りそうだ。
そのまま克巳が逃げないようにだろうか、肩を抱くようにされたまま階段を上がり尾崎の部屋に向かう。
ドキドキと心臓が大きく鳴っている。緊張で手には汗をかいている。いや、緊張でなのか暑いからなのか最早分からない。
倒れそうな位に自分がいっぱいいっぱいになっている気がする。眩暈がしそうだ。
「…そんなに緊張しなくとも…」
克巳の体が強張っているのが分かったのか尾崎の苦笑する声が聞こえた。
耳元に尾崎の声が聞こえ、そして尾崎の唇が克巳の耳を掠めればびくんと体が震えた。
それにも尾崎はくすりと笑いを漏らしたが、克巳はぐるぐると頭が回っていた。
尾崎の部屋までの廊下が長く感じる。その間アパートの住人にも誰にも会わないまま尾崎の部屋のドアの前につくと尾崎は克巳を離し鍵を開ける。
このドアを潜り、一歩中に入ったらどうなるのだろう?
予測がつかない尾崎の行動にくらくらしてしてきそうだ。
克巳の前に立ち鍵を開ける尾崎のTシャツの上の羽織っていたシャツの裾を掴んだ。
尾崎はそれを分かっただろうにそのままにして鍵を開け、そして克巳をドアの中に入れたと思ったら玄関先でドアが閉まる瞬間には抱きすくめられていた。
「ぁ…」
ぐっと尾崎の腕が力強く克巳の体を抱きしめていた。
「間違ってない…と思うんだけど?」
尾崎が克巳の耳元に囁く。
何の事…?
もう何も考えられない。
「…キスしてもいいかな…?」
「…え?」
「嫌だったら逃げなさい」
尾崎はそう言って克巳の頤に手を伸ばし、くいと上を向かせ、そしてゆっくりと顔を近づけてきた。
ゆっくりと尾崎の顔がアップになって近づいてくる。
克巳はどうしようと思いながらぎゅっと目を閉じた。
そして唇が軽く重なる。
押し付けられた唇にそれでこれからどうすればいいんだ?と訳のわからない事を考えてしまう。
だが、すぐに尾崎の唇は離れた。
「………中入って」
尾崎の体温が克巳から離れてこれだけ?と物足りなさを覚えてしまったのに自分でかっとして顔を俯けると靴をわたわたとしながら脱いで部屋に上がった。
尾崎も靴を脱ぎ中に入る。
緊張が…。
足はどう動かすんだっけ?なんて思う位に頭の中がパニクっている。
キス…された。
口を押さえながらリビングの方に行き、いつもと同じように尾崎の向いのクッションに座ろうとしたら尾崎の手が克巳を引っ張った。
「そっちじゃない」
「…え!?」
腕を引っ張られて体がよろけると尾崎の胸に抱え込まれ、そして尾崎の腕の中に抱きすくめられたまま尾崎が座った。
「口説くって言ったでしょう?」
言ったでしょう、と言われても…。
かぁっとしたまま尾崎の腕の中で克巳は小さくなった。
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