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熱吐息 ancora~もう一度~1

 「コンサートよかったです。俺、初めて見たけど…ぞくぞくしました…」
 「ありがとう」
 顔を紅潮させて瑞希が言えば出迎えてくれたお兄さんが照れたように笑ってくれた。
 今日は桐生くんと出かける約束をしていたので迎えに来たのだ。
 
 7月のコンサートに誘われて宗と一緒に行ったら社長までいて瑞希はかちこちに固まってしまったのだが、明羅が社長と普通に話ししてるのに瑞希はすごいな、と感心するばかりだった。
 社長に瑞希も話しかけられてもう恥かしい位にどろもどろになった。
 仕事はどうだ?とか、本当に宗がいいのか?とか…。
 今考えてもうろたえてしまう。何を答えたのかも覚えていない位だった。

 「お待たせしました。じゃ、怜さん行ってくるね!」
 「気をつけて」
 「うん」
 桐生くんとメールをちょこちょこするようになって桐生くんがお兄さんの誕生日プレゼントに悩んでるというのを聞いて宗の誕生日が気になって聞いてみたら宗も誕生日が近くてじゃ一緒に行こう!という事になって桐生くんと出かける事になったのだ。

 「宗、誕生日いつ?」
 「8月9日だって」
 「え?そうなの?怜さん4日」
 近っ!と桐生くんが笑ってた。
 「何いいかなぁ…」
 桐生くんが呟いた。
 「俺、考えられない…」
 瑞希は誕生日プレゼントなんて貰った事もないしあげた事もない。
 「…俺、クリスマスに指輪貰って、誕生日に腕時計貰ってるんだ…ハードル高いよね…」
 桐生くんが頭を抱えている。
 「しかもいつも外食べ行くとなんでも買って払ってくれるし」
 「あ!それ一緒」
 「…宗も?…あの兄弟おかしいよね?お金有り余ってる感じ。少し世の中の為にどうにかしたほういいと思うけど」
 まったくだ、とこくりと瑞希も頷く。

 電車に乗ってデパートに。友達と一緒に買い物も始めてなら誰かへのプレゼントを選ぶのも初めてだ。
 「怜さんの喜ぶような物…思いつかないな…」
 「俺も」
 桐生くんの呟きに頷く。宗が何を喜ぶかなんて思い浮かばない。
 だって欲しい物あったらきっと普通に自分で買ってしまうだろう。
 二人で顔を合わせるけれど首を傾げる。
 「どうしよう?」
 「……ね」
 「とにかく店行ってみよ」
 「そうだね」
 
 でもお店を歩いても何も思い浮かばない。
 二人で少し休もうと店の中のコーヒーショップに入った。
 「ネクタイ…っていってもあんまりスーツ着ないし」
 「財布だってブランドの持ってるし」
 はぁ、と二人で溜息を吐き出した。
 「困る」
 「何悩んでるの…?君達すごい美人だけど…」
 二人連れの男が声をかけてきた。女に間違われたのか?
 桐生くんがじろりと男達を睨んだ。
 「ばか?男だけど?」
 「え?」
 「目、腐ってるんだろ。桐生くん、行こ」
 すっと立ってその場を後にした。
 
 「あ、……ねぇ、宇多さん、コレよくない?」
 「え…?」
 桐生くんが店のショーケースに食いついていた。
 覗き込むとキーケース。
 「ちょっとあの二人だったら値段は足んないだろうけど」 
 でも本革でしっかりしてる作りだ。
 「………自分とおそろいで?」
 「そ」
 桐生クンが頷いて笑みを見せた。
 「…いいかも」
 帰る家が特別だ。宗がいる所。
 色が黒と茶色があった。
 「いいけど…4人おそろい?」
 ぷっと桐生くんが笑った。
 「家族だからいっか?」
 そして一人で突っ込んでいる。
 家族…?
 「みたいなものでしょ?ちょっと、いや、かなり変則的だけど」
 くすっと笑って桐生くんが言った。
 「桐生くんっ」
 明羅の言葉に瑞希は思わず思い切り抱きついた。
 「ありがと」
 「ううん?男4人でってかなり……だけど」
 「そだね」
 桐生くんが苦笑してるのに瑞希も笑った。

 
 無事に決まって桐生くんと満足気にして二人で帰路につく。
 桐生くんがいてくれてよかった。
 「桐生くん今日ありがとう」
 「ううん。こちらこそ。友達と買い物も初めてだし」
 「俺も」
 くすくすと笑い合った。
 家の近くの駅に着いたので桐生君と降りる。休日で結構いた人波の中に瑞希は眉を寄せた。
 「…桐生くん…あれ…」
 小さい声で呼んで肩を叩いた。
 「あ、……」
 電車を降りた駅に背の高い見慣れた背中が二つ。
 ここはまだホームで、人波に紛れてどこかこそこそした感じの背中に桐生くんと顔を合わせた。
 「……ばかみたい」
 「可愛い」
 あれ?と桐生くんと二人で顔を合わせてまたふき出した。
 「ゆっくり歩いて帰る?」
 「そうだね」
 心配してついて来たんだ。
 瑞希は口元が綻んだ。
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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