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追憶の彼方から放されたい 56

 現実だろうか、と思うけれど、経験したことのない圧迫感と異物感に夢でなんかない、と感覚が訴えている。
 昼間っからこんな事しているのが信じられないけれどそんな事よりも尾崎を感じられる事の方が克巳には重要だった。
 尾崎の背中に手を回せば汗ばんでいて尾崎も短い息を荒く吐いている。
 「んっ…ぅ…ふぁ……」
 意味もなく声が断続的に漏れてしまう。

 「克巳…もっと感じて…」
 耳にキスしながら尾崎が囁けばぞくぞくと克巳の背中が戦慄く。
 「ん…中が締まった…声でも感じる…?」
 「ん!…いい、から…もっと…」
 尾崎はゆっくりとした律動を繰り返している。
 「だい…じょ…ぶ…」

 慣れない克巳を気遣っているんだ。でも尾崎の本質はそうではないらしいのは尾崎の目に焦燥が浮かんで見えるので分かる。
 「そんな事言ったらダメだって。ホント困る…こっちは必死で抑えてるのに…」
 「あ、ぁう…」
 ぐっと尾崎が奥を衝いて克巳の身体が跳ねる。

 胡散臭いと思っていた面影が全然見当たらない。それにさっきまでの余裕に見えたのも今は見えなくてふふ、と克巳は思わず笑ってしまった。
 「克巳?」
 ぎょっとしたように尾崎が驚きの顔を見せた。
 「なんで笑う?」

 「だ、って…尾崎が余裕なさそ…で…あ、ん…」
 「ないですね」
 あっさりと尾崎が肯定をすると克巳の中をかき回しながら衝いてくる。
 「や…」

 「嫌じゃないんでしょ…?まったく…初めてだというのに余裕を見せられるとは…」
 「よ、ゆう…ない、よ…全部…ぐちゃぐちゃ…」
 みっともないと思うし、恥かしいし、嬉しいし、気持ちいいし、苦しいし、もう色々混ざりすぎている。
 「もっとぐちゃぐちゃにしたいんですけど」
 「いい、よ…はぁっ…ぅ…」
 尾崎が抽挿を激しく克巳の中を穿ってきた。

 「なんでそう煽るかな…」
 「はは…」
 尾崎が汗を伝わせながら克巳の腰を持ち上げて奥深くを衝いてくる。こんな尾崎を見られるなんて…。いつものスカした所なんて一つもない。それが嬉しくて愛おしくておかしくて笑いが漏れた。
 「克巳…?」
 汗だくになっている尾崎の首に腕を回し、顔を近づけるとそっと尾崎の頬を伝う汗を舐めた。

 「しょっぱ…」
 「何してるんですかッ!」
 ずくりと克巳の中でまた尾崎が怒張を増した。
 「ったく!」
 「あ、あ…や…ぁっ」

 克巳の身体を激しく揺さぶり尾崎が熱い塊をぶつけてくる。
 ぐちぐちと尾崎が動く度にヤラシイ音とたて、荒い息は克巳のと尾崎のが交じり合っている。
 「や、だめっ!」
 尾崎が克巳の前に手を触れ、さらに身体を煽ってくる。
 「もう悦すぎてイきそうなんです。自分だけじゃ、ね…克巳も萎えてもないようだけど…イって」

 「はぁ…う、ん…」
 深いキスを貪られ、前を弄られ、後ろを穿たれ、どこもかしこも身体が尾崎でいっぱいだ。
 「ん、ん、…ぁぁ…っ」
 塞がれた唇の隙間から喘ぐ声をもらし、びくびくと克巳は身体を震わせると自分の身体に吐精を浴びせ、そしてぎゅっと後ろが締まると尾崎も短い声を上げて克巳の中に熱い飛沫を吐き出した。

 はぁはぁと互いに息をつきながらもキスを繰り返す。
 「ちょ…おざき…?」
 「まだ全然足りない」
 克巳の中でイったばかりのはずなのに、尾崎のものがまだ漲っている。
 「克巳の中が蕩けてる…」
 耳朶を甘く噛まれて尾崎がまた腰を使い始めた。

 「う、そ…」
 「克巳、いい、って言ったでしょう?好きにさせてもらいますよ。もう止まらないので責任取ってください」
 開き直ったらしい尾崎は萎える間もなくそのまま克巳を翻弄していく。
 …溺れそうだ。
 でも溺れるなら一人じゃなくて尾崎も一緒なのだろう。それならそれでいい、と克巳は尾崎の体にしがみ付いた。

 「克巳」
 切羽詰った尾崎の声。必死になっている尾崎が可愛いじゃないか、とそんな事を思ってしまう位に盲目的になっているらしい。
 額に汗で髪が張り付いているのもいい。

 それ位尾崎が克巳を欲しがっているならいくらでも…。
 隠さなくちゃと思っていた心が開放されれば全部を受け入れるだけだ。尾崎も全部出していいのに。何をされても言われてももう克巳は拒否する事は出来ないだろう。
 
 
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