「はじめまして。尾崎 祐介と申します」
尾崎は手帳を開示して自分の事を克巳の家の家政婦に示した。
「克巳くんには警察の方にちょっとご協力いただいてまして、私が担当になっております。機密事項なので詳しい事も言えないのですが、くれぐれもご口外はされませんようお願いいたします」
家政婦があらあら、と驚いた表情だ。
克巳は泊まるための小さな着替えのバッグを手にどうしたものかと冷や汗が流れそうだ。
「今日も克巳くんの事は責任を持ってお預かりいたしますので」
「はぁ…」
「いいよ、行こう」
いたたまれなくて克巳は尾崎の腕を引っ張った。
「……責任を持って…だって」
尾崎の車に乗り込み照れくささを誤魔化すように克巳がふんと鼻息を漏らしながら言えば尾崎はさも当然の様に頷いた。
「責任を持ってお世話させていただきます」
「…違うだろ」
尾崎が余裕を持ってくっくっと笑ってるのが小憎たらしい。克巳なんかちょっとの事さえも動揺してしまうのに。
尾崎が克巳のバッグを取り上げ後部座席に放るが見た目で上機嫌なのは分かる。
「挨拶も済んでこれで公認でお泊りできますね」
「…ふん」
克巳は尾崎から目を離し窓から外を眺めた。
本当は克巳だって浮かれているんだ。まだ好きだと確認して何日も経っていないのだから当たり前だ。
尾崎を見て思い出すのは尾崎にされた事だし、思い出すだけで身体が火照ってきそうになる。
それがまた恥ずかしい。
今日一日保つだろうかと小さく溜息を吐くと尾崎の車が静かに出発した。
「おはようございます」
いつもの様に顔を合わせれば挨拶が飛び交うが自分の動揺は出ていないだろうか、と克巳は穿ってしまう。普段通りにを心がけ、なるべく尾崎を意識しないようにした。
するどい光流くんが今日は来てなくてちょっとほっとしてしまった。
小さい事件は毎日のように起きているが今日も大きい事件はなく、それはいいことだと克巳も思う。
この間のような痛ましい事は起きて欲しくないと願わずにいられない。
謎な事件もないのでどことなく和気藹々とした雰囲気で時間が過ぎていく。
「そういえば大垣議員の、江村くんニュース見た?」
熊谷さんが一息ついたときに口にした。
「見ました」
父親と不仲説は誰でも知っているのだろうか?
「残念ながらもみ消しだなぁ…。なにしろ彼の父親がまだ現役で力あるからねぇ」
「…別に俺には関係ないですけど」
「あ?そう?まぁ大幅なイメージダウンだろうけどね。ボンボンバカ息子で親父さんも苦労してるみたいだけど。尻拭いにね」
そうなんだと克巳は他人事の様に聞いていた。
何しろ克巳の父親に対して変な対抗意識を持っているらしいが、それを知ったのもついこの間なのだから克巳にとってはどうでもいい事だった。父親の態度を見ても大して相手にしていないようで、小うるさい位にしか思っていない感じだ。
「警察なんて宮仕えだからね…」
苦々しそうに熊谷さんが吐き出した。
そうなんだろうな、と世間を知らない克巳でも思う。腐った政治家も中にはいるのだろう。自分の父親がそうでなければいいな、と思う位だ。清廉潔癖だとは思わないが汚職している事はないと信じてはいる。
いつも飄々として家の事などには興味がないようで家に金を使う事もしていないし目に見える贅沢もないと思う。それでも人よりは贅沢かもしれないが、毎日豪遊しているわけでもない。ごくたまにこの間の刀みたいな物を手に入れたりしているらしいが次々と手を出しているわけでもない。
小さい頃から父親の書斎はほぼ変わらないのだ。もっと無駄遣いが好きなら色々と物が増えているだろうがあまりそんな変化はない。
克巳が世事にあまり興味ないように父親も家の事とかにも興味ないのかもしれない。欲もあまりないのだろうか?祖父もそんな感じの人だったらしいが…。
法事の時に陰で色々言っている親戚連中も多かった。どうやら賄賂が通じなくて苛立っているような外戚連中だったらしい。
親戚連中なんて面倒だなと克巳も思う。
どうせ政治家になどなるつもりもない克巳には関係ない事だ。
なるべく自分は隠れるようにしていたい。こんな変な力の事が表立ったら絶対面倒な事になるのは目に見えている。そんなのはごめんだった。
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