映画は超大作SFとコマーシャルしてたものを見た。
本気で尾崎がカップルシートを取ろうとするのを阻止して普通の席で、だ。
でも暗くなってからずっと手を繋いでいて半分は意識が尾崎にいっていた。恥ずかしいと思いつつあからさまな愛情を向けられるのが嬉しく思ってしまう。
…愛情に飢えていたのかもしれない。母親に気味悪がられ、父親も素っ気無い人で克巳は家政婦に育てられたようなものだが愛情をくれるような関係ではなかった。
克巳の力の事も知っていたしそこで克巳自身も迷惑かけないようにという意識があったのかもしれない。
シートとシートの間で繋がれた手が照れくさい。でもそれを外そうとも思わないのだから…どんだけ、とも思ってしまう。
唯くんも同じように親の愛情に飢えてたから…だからやはり同じように武川刑事といるとあんなに幸せそうな顔になるのだろうか?今の自分もふわふわと幸せに気持ちが踊っている気がしてしまう。
ちらっと隣に座る尾崎の横顔を見て、すぐに顔を俯け、そうじゃなくて映画見ないと、とスクリーンに目を向ける。
なのに感じるのは尾崎の手の温もりだ。
こんなに集中力が散漫でどうしたらいいんだろうと思うけど自分でもどうしようもない。
「ちょっと映画は失敗だったかな…」
こそりと尾崎が顔を近づけてきて克巳の耳元で囁いた。
「克巳を押し倒したくなって困る」
ぎゅっと繋いだ手に力をこめられると克巳まで変な気分になってきそうだ。
「せっかくなんだから映画!」
「そうなんだけどね」
薄暗い映画館で助かった。今絶対顔が赤くなっていると思う。
なるべく顔はスクリーンに向けていたけれど、感覚は全部尾崎の方を向いていたのは内緒だ。
映画がやっと終わって館内を出ると妙にほっとした。
「あんまり内容覚えてないなぁ…」
それは克巳もだ。さらりとそこは流すと尾崎と前に行ったレストランに向かった。
映画の前に尾崎が電話をして後から行くと連絡を入れていたので店につくと尾崎の友達が黙って案内してくれる。
部屋が独立したような作りになっているから人の視線も気にならないしいい店だと思う。
「また来たんだ?」
「克巳が気に入ったみたいでね」
部屋に案内されると尾崎の友達がくだけた言い方で話しかけてきた。
「克巳くん?」
「あ…江村 克巳です」
「小関 潤です。コイツとは悪友。悪いコトした仲間」
「…悪い事?」
小関さんって人が悪い事となんて無縁のような柔らかい笑顔でそう言って克巳は尾崎の方を確かめるように見た。
「言うな。克巳には言ってないんだから」
「へぇ?」
尾崎がむっとした顔をして克巳は目を惹かれた。どこか悪ガキの雰囲気でまた尾崎の様子がちょっと違う感じなのも見てて楽しい。
思わず好奇心の目になっていたのか尾崎が克巳を見て眼鏡の奥の瞳がどこか罰の悪そうな色をした。
椅子をひかれて席につくと尾崎がこの間と違う料理、と小関さんに素っ気無く自分を取り繕うように言うのがまた面白くて克巳は緩みそうになる口を押さえてしまった。
「なんだ…今日はいい雰囲気だな?」
「…まぁね」
小関さんに言われて尾崎も頷き、そして二人が克巳をじっと見ていた。
「ふぅん?」
にやにやと小関さんが尾崎を見て笑いを浮べながらいなくなった。
克巳はこの間と角度は少しだけ違う夜景に目を向けた。道路を走る車のライトが並んでいる。ビルの明かりやネオンも煌々としてそして反対に店は薄暗くペンライトがテーブルを照らしている。
「…綺麗だな」
「…ここじゃなくたって他にもこんな店あるでしょうに」
「そうかもしれないけど。尾崎の友達がいるから…」
自分を尾崎のテリトリーに入れてもらえているようで嬉しいんだ。
「友達じゃなくて悪友」
「…悪い事って?」
「あーーー……まぁ…それはおいおいに…」
尾崎が髪をがりっとかきながら嫌そうに答える。
「……話したくないのか?」
「うーん…そうだな…なるべくなら。かなりバカしてたからな…」
バカ?
どういう事なんだろう?
きょとんとして克巳が尾崎を見たら尾崎が苦笑を漏らしていた。
「なるべくなら克巳には知られたくないかぁ…と」
「そうなのか…?」
「ああ。なので広い心で待ってて下さい」
それでも話さないとは言わない尾崎に克巳は小さく頷いた。
たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m
にほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説