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熱吐息 ancora~もう一度~2

 「すみません、また来ちゃいました」
 宗と一緒にお兄さんの家に遊びに行く事が増えた。
 桐生くんと仲良くなった事が大きい。
 だってすごく話しが合う。
 境遇なんて雲の上という位に違うはずなのに、桐生くんもずっと一人だったみたいで、話がよくリンクする。
 始めは宗が桐生くんを特別というのに訝しんでいたけれど、桐生くんはお兄さん一筋みたいで聞けば11年もというから驚いた。
 だって11年前って桐生くんはほんの子供なのに。
 音楽という特異な世界だからこそ誰も入っていけないような雰囲気がある。
 「いいな…」
 「何が?」
 「だって桐生くんとお兄さんは音楽って繋がりがあるでしょ?」
 「宇多さんだってそのうち仕事一緒にするんでしょ?宗がまだ大学生だから無理だけど」
 「…うん」
 「そっちのほうがいいでしょ。怜さんはピアニストで、すごい人だからいいけど。俺なんていつ消えるか分からないよ?」
 「そうなったら俺が食わしていくから別にいい」
 「……今だってほとんど何も払ってないのに」
 桐生くんがぶつぶつ文句を言っている。
 まったく瑞希も同じ気持ちなので頷く。
 「分かる…」
 「ね!」

 二人で頷いてると宗とお兄さんがじっと見てた。
 「……百合にしか見えん」
 「……………怜さん?」
 お兄さんの呟きに桐生くんがじとりとお兄さんを睨んでた。
 「今、なんか聞こえたけど?」
 にっこりと桐生くんが微笑む。…ちょっと怖い。
 「…気のせいじゃないかな?」
 お兄さんが空っとぼけてた。
 しかし、このリビングにある大きなピアノはすごい。
 初めて演奏会なんて行ったけど、同じピアノだ。
 「すごいよね…?学校にあったのってもっと小さいよね?」
 そっと宗に聞いてみた。
 「ああ?ピアノ?学校のと一緒にすんなよ?これは瑞希の値段よりももっと上だぞ?」
 「え?」
 ってことはピアノで1千万以上、ってこと……?
 びっくりして瑞希は目を丸くした。
 「俺、……ピアノ以下?」
 「だから安いっていっただろ」
 「……………宗……?」
 桐生くんの低い声が聞こえた。
 「宇多さんがピアノ以下、ってなんの話?」
 「あ…」
 瑞希が口を押さえた。
 「何でもない」
 「宇多さん?」
 宗が答えたけど桐生くんがにっこり笑ってる。
 「ええと、別になんでもないよ…?」
 「どういう・事?」
 「……始めに俺が宗に…その俺を、買ってって…頼んで…」
 ぽつぽつとしどろもどろに呟くと桐生くんがじろりと宗を睨んでた。
 「たった1千万ぽっちで!?」
 「誤解だ。桐生、うるさいぞ」
 「へぇ……そう言う事いうの?じゃ宇多さんに宗の事話してしまおうか!」
 「…何を…?」
 瑞希がちろと宗を見た。
 「ええ~?宗が俺をストーカーしてたとか」
 「違うだろっ」
 宗がいきなり慌てている。
 「……やっぱり……宗は桐生くんが特別なんだ」
 「違う!」
 「宇多さん、宗なんてふっちゃえ!買うなんて最低だ」
 「だから違うって……!」

 「………お前達宗で遊ぶのやめたら?」
 お兄さんが笑いながら止めてくれる。
 本当は桐生くんにちゃんと聞いて知っている。
 お父さんの事を心配して、とは聞いていたけど、本当は宗は桐生くんを気になっていたんだとも思う。
 けれど今は宗は全部瑞希を見てくれている。
 だから信じられた。
 いつの間に信じられるようになったのだろう?
 こんな他愛のない時間が自分に訪れるなんて思ってもみなかったけれど、今は信じられる。
 「…ありがとう」
 「え?」
 宗がふざけていたのが分かって安堵して頭を抱えてた所に瑞希が言った。
 「ありがとう。……信じてる、から…信じられる、から」
 宗がふっと表情を緩めて瑞希の頭を撫でてくれた。
 本当は瑞希のほうが年上なのにもうずっと頼りっぱなしだ。
 「頼って、いい?」
 「…ったりまえだ」

 「………ちょー恥かしい…」
 桐生くんがそう言って顔を赤くしてお兄さんの背中に隠れていた。
 …いつも桐生くん見てるほうがずっと恥かしいと思うんだけど、とは瑞希は言えなかった。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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