この間とは違う料理はわざわざ用意してくれたものなのか、それともメニューにあるものなのか克巳には分からなかったけれど、やっぱりどれもおいしかった。
店の雰囲気と夜景に克巳でさえ酔ってしまいそうとまた思ってしまう。
それと並んで窓際に外を向いて座るのも普通の店だったらないのでそこも気に入っている。
…尾崎以外だったらゴメンだが。
この間連れてこられた時はそこまで思わなかったはずだけど、今ははっきりとそう思う。
「あ~…明日仕事休みだったらよかったのに」
尾崎が頬杖をつきながら克巳を見てそう呟き、克巳はどきりとした。その尾崎の銀縁の下の目が残念、と言わんばかりの言葉を目に見える位に含んでいる。
「しかも休みがね。ないんだ」
はぁ、と尾崎が大きな溜息を吐き出した。
「……じゃあ…その…合鍵………使っても…いい、か?」
「勿論!いつでもいいっていったでしょう?来てくれます?」
「…ん。ただ俺行っても何にも出来ない…けど」
「そんなの別に!だってほら代わりに克巳には色々しちゃうから」
「尾崎っ」
尾崎が克巳の耳にキスを掠めながら小さく囁いた。
そういうことを外で言うのは止めて欲しいんだけど!動揺してしまうじゃないか。
…と思いつつなるべく動揺しないようにと口元を押さえて熱くなりそうな頬を隠す。
「…可愛い…でもそんなとこ誰にも見せないようにね?」
「……」
そんな事言われても、何が、どこが、が分かりもしないのに。
じろりと尾崎を睨むと尾崎が肩を竦めた。
「そんな顔しても俺には可愛いにしか見えないんですけどね」
そんな事を言って耳にキスする。
「や、めっ」
いくら部屋が仕切られて見えないにしたって人が来たら、と思ったら案の定尾崎の友達が戻って来た。
「ヤメロ。コラ」
「チッ」
見られた!…と克巳の顔がぶわっと今度こそ赤くなっているはず。そんな舌打ちしている場合じゃないだろうが!とぎりっと尾崎をまた睨んで口を開いた。
「このバカ!俺はいいけど、お前が見られたらっ」
「あ…?」
尾崎が克巳の言い方に首を傾げた。
「…克巳は見られてもいいの…?俺…?」
「お前は警察だろうがっ」
小さい声で抗議すれば尾崎が克巳の肩を抱き寄せて来た。
「見た?可愛いでしょ?」
自慢するかのように小関さんに尾崎が顔を崩しながらドヤ顔で言う。
「ハイハイ。…克巳くん、コレ調子乗るから嫌な事は嫌だってちゃんと言った方いいよ?」
「嫌…」
…なわけではないんだけど。ただ困るな、と思うだけで…と思っていたら小関さんに溜息を吐かれてしまった。
「…とにかく、そういう店じゃないんだから自重しろアホ」
小関さんが克巳と尾崎の間に割り込み、サラダをテーブルに置いた。
克巳はいたたまれなくて小さくなるが尾崎は平然としたままで仕方ない、と言いつつ克巳を離す。
…疲れる。
そんな尾崎の攻撃を防御しながら食事をした。
やっぱり料理も美味しいと思うけど、尾崎が好きな様に行動するのが困ったものだ、と思いつつも許してしまっているので克巳も同罪かもしれない。
攻防を繰り返しながら、小関さんには呆れられながらも食事を終わらせて店を出た。
いいけど会計を尾崎はまた払ってしまう。映画も尾崎が出したのに。
「あの…自分の分…払うのに」
「いいです。誘ったのも俺ですし、克巳はまだ大学生だからね」
でも…と駐車場に向かいながら克巳は項垂れる。
外で食事とかはやめたほうがいいのかも、と克巳は眉を寄せた。この調子だと克巳には何も払わせる気はないらしい。
働いてもいない自分が奢る、なんてのもおかしいが、せめて自分の分位は払うのに…。
「克巳…気にしない。じゃあ今度バイト代が出たら何かプレゼントでもしてください」
「…バイト代?」
「出るでしょ?今日だって行ってるんだから」
「…あ…。でも別に何してるんでもないのに…」
「何言ってるんですか。特殊任務なのに」
くすりと尾崎に笑われる。
そっか…バイト代が出るのか。じゃあそれで何か尾崎に…。
「…分かった」
克巳が頷くと尾崎がじゃ早く帰りましょう、と足早になり慌てて克巳もついていく。
さすがに外で手を繋ぐなんて事はしなかったので安心したが、人の目がなければ尾崎はそうしたかもしれないと思う位にスタスタと歩いていった。
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