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追憶の彼方から放されたい 66

 車では黙って尾崎は自分のアパートに向かって車を走らせた。
 黙っていても空気が悪いわけではなく、ヘッドライトの光る道路を進んでいく。
 店から見ていた光りの洪水の中の一つだな、なんて思いながら克巳は外の流れる風景を見ていた。

 …今日もするんだろうか…?
 泊まるという事は…だよな?と急に思い出しかっと身体が火照ってくる。
 今さっきまで店でじゃれていたときはそんな事思いもしなかったのに、これから、と思ったら心臓も大きく鳴りはじめた。
 ちらっと尾崎の横顔を盗み見ると尾崎はいたって普通で、意識してるのは自分だけかと恥かしくなる。

 意識というか期待か…?
 いや、違う!と克巳は小さく頭を横にふる。
 …違わない…んだけど…。
 また自分の中がぐちゃぐちゃしてきた。

 「克巳?着きましたけど?」
 「え?ああ、…うん」
 頭の中が動揺しているうちに着いていたらしい。
 尾崎が克巳の荷物を持って車から降り、慌てて克巳も車を降りた。
 「克巳…」
 尾崎が克巳の手を掴み、手を繋がれて階段を上がっていく。
 
 恥ずかしいなと思いながらも尾崎のされるがままだ。案外尾崎はべたべたが好きらしい。見た目は冷たそうな冷徹そうな感じなのに…。
 そういえばいつもは見えない瞳の奥に激情が隠されているのは克巳にも分かったが…いつもは冷たい銀縁のメガネで隠されているんだ。
 尾崎の部屋の前で手を離され尾崎が鍵を開け、そして尾崎に続いて部屋に一歩踏み入れる。
 
 電気をつけた尾崎は克巳が入ると鍵を閉め、そして克巳の荷物を放ると克巳を抱きしめた。
 「…朝から一緒だったのに抱きしめもできないしキスも出来ないし、長かった」
 そんな事を言われればかぁっと身体がまた火照ってくる。心臓もまたうるさくなってくる。そんな事を考える余裕も克巳にはなくて、克巳はただ横に尾崎の存在があるだけさえどぎまぎしてたのに。
 そのまま尾崎が顔を近づけてきてキスしてきた。

 その尾崎の存在を確かめるように克巳も尾崎の背中に手を回す。
 恋人…なんだ。初めての好きな人で、…同じ想いを返してくれる人だ。
 ゆっくり交わされるキスを克巳も受け入れる。
 啄ばむようにキスを繰り返しながらそして舌を尾崎が差し込んでくるとそっと克巳もそれに応え、自分からも舌先を突き出すと尾崎の舌がそれを捕まえ貪るように絡めてくる。

 「ん…ふぅ…」
 吐息を漏らしながら尾崎のキスに酔いしれる。
 熱い熱の籠もったキスに克巳の身体が蕩けそうになってきて、背中が仰け反っていくけれど尾崎の腕はしっかりと克巳の背中と腰を抱きしめて力が抜けそうになる克巳の身体もしっかりと支えてくれている。
 「ん…は…」
 このキスだけでもう身体はいう事も聞かないくらいに熱くなってしまう。

 「それで?何がどうやって可愛いになったんです?」
 「ん?…何が?」
 ぽやんとしたまま尾崎に聞き返した。
 頭の芯もぼうっとして尾崎が何を言っているのか分からない。
 力の抜けた身体を尾崎に寄りかかるようにして聞き返した。

 「ですから、武川本部長の息子さんに可愛いって言われたんでしょう?どんな状況で?」
 尾崎が克巳の耳を食みながら小さく囁く。
 「妬ける」
 「…は?」
 「大体俺には電話一本かけてきた事もないのに。そういやメールアドレスも聞いてない」
 
 「え?あ…だな…。でも光流くんにだって電話はした事ないけど?唯くんには何度かしたけど…」
 「俺といるのに他の男の名など呼ぶもんじゃありません。しかも俺には尾崎なのに他二名は名前呼びだし」
 「……だって武川が3人もいるから…」
 狭量な目の前の男にくすりと笑ってしまう。
 「…祐介?」

 小さく尾崎の名前を呼ぶとスイッチが入ったように尾崎が克巳の身体をぐいと抱き上げてそのまま部屋を横切っていく。
 「ちょっ」
 「一日触れるのを我慢してたんですからもう無理」
 「いや、ちょっと待て」
 「待ちません」

 十分触ってたと思うけど、と思ったがそれを言う間もなく寝室に運ばれてしまう。
 そしてベッドに放り出されるようにされるとそのまま尾崎が克巳を組み敷くように圧し掛かってきてキスを深く貪られる。
 余裕がないように息をする間もない位に深く何度も何度もキスが交わされた。
 
 
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