「爆弾処理班を。それと全隊員に火器厳禁、爆弾所持の可能性ありと伝えろ。それと大至急この人物の洗い出しだ!」
光流くんのお父さんがすぐに指示を出している。
バスの中を見えているのは克巳だけなのにこんなにすぐに…いいのだろうか?と克巳は自分の言った事の重要さに青くなって震えそうになる。
「克巳、大丈夫」
尾崎が小さく克巳の耳に口を寄せて囁いた。
大丈夫…?本当に…?
嘘は言ってないけど…もし間違えていたら…?
尾崎は銀縁の眼鏡でいつものように飄々とした表情だ。でも優しく克巳を宥めるように肩を抱いている手でぽんぽんと小さく叩いてくれる。
「克巳、犯人はどうしてます?」
「…ずっと後部座席の方に寄ってる乗客たちを睨んでる感じだ。銃を向けて…」
「本部長、犯人からの要求もないんですね?」
「ない。こちらからの呼びかけにも応じない」
バスの脇ではスピーカーを使っての交渉がずっとされているけれど犯人は乗客たちから目を離さないらしい。
克巳は双眼鏡でデジタルの数字が見えないかとずっと見ていた。
「ここから場所移動すれば見える」
「いや。克巳はここにいた方がいい。報道陣もあちこち張ってるでしょうし、少しでも克巳を危険から遠ざけていたい…。爆弾の威力がどれほどか分かりませんが、ここだって危険に変わりはない」
「でも…」
「少し騒ぎを起こしてみよう。発砲とかそういうのではなく。尾崎の言うとおり江村くんを危険な目には合わせられないから」
光流くんのお父さんが無線機で何かを指示している。
「江村くん、双眼鏡。こちら本部武川、合図出すので一斉に動きを出すように、どうぞ」
無線機の音があちこちから聞こえさらに緊迫した雰囲気だ。
「乗客達の様子はどう?」
「……怪我人とかはいないみたいだけど…怯えて震えてるみたい」
「…でしょうね」
「江村くん…犯人見てて」
「はい」
光流くんのお父さんの指示に克巳は頷いた。
「テンカウント」
何をするのだろうか…?
光流くんのお父さんが無線機に向かってカウントダウンを始めた。
セブン…
ファイブ…
克巳は双眼鏡から目を離さずじっと目をこらして見ている。
ゼロでざっと警察の機動隊が一斉に何か音を立て始めた。双眼鏡を覗いていた克巳には何をしているのか分からなかったけれど、そっちよりも重要なのは犯人の方だ。
物音に犯人も何事かと怯えた表情で手は乗客に銃を向けたまま身体をこちらに向けた。
「見えた!01、32」
克巳は声を出した。
デジタルの数字は小さくとも光っていたのでよく見えた。
「あと一時間半かそれとも午前1時32分か…」
「32は中途半端だから残り時間じゃ…?」
「じゃああと一時間半…?」
克巳の言った事を誰も疑問に思わないのかすぐに話し合いは始まっている。
「本部長!」
失礼します、と隊員がまた入ってきた。紙を手にしている。
「江村くん、爆弾がどういうものか分かるか見て欲しい」
呼ばれてテーブルにいくと色々と資料を見せられた。
「よく分からない…それに暗くてあまり見えなくて。ただそんな立派なものじゃないような気はするけど…」
克巳が自信なさそうに言うと光流くんのお父さんが大丈夫だ、と頷いた。
「十分すぎる位に助かっている。君がいなかったら何一つ分からないで爆発していたかもしれない。でもこちらには君がいるから…させないよ」
にいっと笑う顔は自信に溢れている。武川刑事のお兄さんで光流くんのお父さん、二人によく似た顔の人の自信にありふれた笑顔に克巳はほっと安心が広がった。その人の携帯がピリリと鳴った。
「あ、詳細のメールだ。犯人の名前は安藤康之、47歳。高校の理科、主に化学教諭。既婚暦なし。逮捕暦もなし。どうやら生徒に人気のない先生らしいな。ここ数年学校を休みがちで言動もおかしいらしく学校側は休職を進めていたらしいな。精神的なのか、もしくはクスリか…」
今やっている事だって常軌を逸している。
「さて爆弾が本物ならあまり時間がないな。克己くん無線つけて」
無線を手渡されると尾崎がそれを克己につけてくれる。
「突入班はいつでも突入できる気持ちで待機。江村くんはなにか動きがあった時に知らせてもらえるかい?直接私に繋がるようになっているから」
光流くんのお父さんに言われて克己は頷いた。
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