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熱吐息 ancora~もう一度~3

 「瑞希!身体熱い!」
 「え?」
 瑞希の目が潤んでぽやんとしている。
 いつも瑞希は目覚めがよくてすぐに起き出すのをぐだぐだと宗が身体を離さないのが常なのに瑞希が宗にへばりついてきてぐだぐだしてるのにおかしいと思ったら身体が妙に熱かった。
 「体温計なんてないぞ!」
 宗は風邪なんて滅多にひかないしひいても喉がいがらっぽいとか、咳こむくらいで熱や寝込んだことなどなかった。
 「熱……?ああ、いいよ。寝てれば治るから」
 「んなわけないだろう」
 「ん~~ん。大丈夫。いつもそうだから…」
 瑞希が頬を赤くしたまま、そして眠ってしまった。
 土曜日で仕事は休みだからいいけれど。
 昨日の夜しすぎたか…?
 いや、そうでもないはず。
 そういえば身体が温かいと思ったがもしかして昨日から熱あったのか!?
 宗は慌ててベッドから起き上がって着替えると携帯を手に持った。
 「もしもし!瑞希が熱あるみたいなんだけど!」
 『ああ~~?……宗、なんだってお前は土曜になると煩いんだ?』
 「いいから起きろ!瑞希が熱!」
 『寝てりゃ治るだろ』
 「……瑞希の携帯から桐生にかけるぞ?そしたらきっと桐生はこっちにすぐきてくれるよな?」
 桐生が来たって役立たないのは分かってはいるけれど、これが兄貴に効くのは分かる。
 『……熱何度?』
 「知らねぇ。体温計なんてないから」
 はぁ、と電話の向こうで嘆息してる。
 『とりあえずドラッグストア行って体温計、ヒエピタ、スポーツ飲料水、おかゆ、解熱剤、あとなんだ…?ま、いっか?それ買って来い。そしたらまた電話よこせ』
 そう言ってぶつっと電話が切れた。
 「瑞希…ちょっと買い物行って来るから」
 「え…宗…いなくなるの…?」
 とろんとしたままで寂しそうに言われればうっと止まりたくなるがだめだ。
 「すぐ帰って来るから」
 ばたばたとドラッグストアに行って怜に言われた物を購入して即行でマンションに戻る。
 直通のエレベーターでさえやけに遅く感じてしまう。

 部屋に戻ると瑞希は眠っているみたいで目を閉じていた。
 その額に手をかざすとやっぱり熱い。
 買ってきたばかりの体温計を出した。
 「瑞希、熱」
 「…ん?宗……?」
 脇に挟んでやると身体のあちこちにキスマークが見えて扇情的に見える。
 おまけに熱で瞳は潤んでいるし、顔は赤いし……
 宗は頭を振った。
 ピピという電子音に体温計を取り出すと38度5分。こんな熱見た事ない。
 すぐに携帯を手にした。
 「8度5分だった!」
 『……ああ、それ以上熱上がるなら病院連れてけ。とりあえず薬はのませない方がいいな。ヒエピタ、額と脇の下、首に貼ってやれ。あと水分とるように。おかゆレトルトの買ってきたな?食えそうなら食わせろ。……熱以外は?発疹出てるとかないか?』
 宗は瑞希の顔、身体を見る。
 「ない」
 『なら少し様子見ろ。さらにぐったりとか熱上がったりしたら病院だ。熱下がって食欲あるようなら心配ないだろ』
 「…分かった。サンキュ」
 『おう。…お大事に』
 くくっと怜が笑って電話が切れた。
 とりあえず怜に言われたとおりに買ってきたヒエピタを額、脇などに貼っていく。その度に瑞希が冷たいっとくすくす笑った。
 レトルトのおかゆ温めて、食べさせて、スポーツドリンク飲ませて。
 午後には熱が下がって7度8分になったのにほっとする。
 「…宗……ごめんね」
 瑞希の瞳が大分普通になったのにさらに安堵する。
 「いや?しんどいか?」
 「ううん」
 ベッドの端に腰かけて瑞希の頭を撫でた。
 さらさらの髪だ。
 「俺、……施設いた時以来……誰かに看病なんて…はじめて…」
 小さく瑞希が布団に隠れながら呟いた。
 寝てれば治ると言った瑞希の言葉。
 今まで一人でじっとして熱が通り過ぎるのを待ったのだろう。
 そう思うと苦しくなる。
 「…これからはいつでもいるから」
 「………ん。ありがと……嬉しい……」
 布団の中から瑞希の声が小さく聞こえた。
 瑞希はいつも小さな事を喜ぶ。
 何気ない言葉や態度を。
 宗が考えてよかれと思った事はあんまり好まれてはないようなのだ。
 それがちょっと面白くないけれど、いつもどうでもよくなってしまうのだった。

 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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