光流くんのお父さんがテントを出て行った。
バスの近くに行ったのだろうか?大丈夫かな、と心配になる。
「尾崎も俺の担当じゃなかったらあそこの中?」
「どうかな…。俺は機捜じゃないからね」
「そう…?」
こそりと双眼鏡を目にしながら尾崎に聞いてみる。
「…尾崎が危ない目に合うの…嫌だな」
もしあの黒山の中に尾崎がいたなら嫌だな、と思う。仕事と言われればそうだけど、心配は心配だ。
「大丈夫。俺は狡賢くて逃げ足早いので。あ、通信する時はここ押して」
「そういう問題じゃないと思うけど」
尾崎の説明に頷きながら克巳は尾崎と小声で会話をした。
光流くんのお父さんがいなくなるとあとは熊谷さんしか知らないのだ。その熊谷さんは端っこの方で小さくなっている。
やっぱりお偉いさんの前だと緊張するのだろうか?
ちらっと熊谷さんを見たら気にしないで双眼鏡見てろ、とジェスチャーしてきて克己は頷き双眼鏡を覗き込んだ。
なんとなく現実離れしてる気がしてならない。
日常にこんな事が起きないからだろうけど…、その前に自分自身が現実離れしてるだろ、という突っ込みが必要な気もするが、自分の事は克己の中では普通の事なのだ。
双眼鏡でバスの中まで覗くなんて普通じゃないのは分かっているが、実際克己の目には見える現実だ。
ごちゃごちゃと考えても分からなくなってくるだけで、今克己のしなくてはいけないことだけに神経を集中させよう、と克己はバスの中を覗いた。
「江村くん」
「はい」
呼ばれて目をちらりと向ければ偉そうな人の一人だ。
「生まれた時からそういった特殊な力を持ってると聞いたが」
「…はい」
舐めるように見られてる気がする。そこにあるのは好奇心だけのような視線だ。
嫌な目だ、と思いながら克己は双眼鏡から目を離さない。
克己の事を知っているのなら今ここでは克己の事ではなく人質に取られている人の安否や犯人の様子など聞く事はあるだろうに、そんなモノには興味がないと言わんばかりに不躾な視線が克己に絡んでくる。
内心苛立ちを思えたら尾崎がそれを宥めるように克己の方肩を掴んでいた手に力を入れてきた。
「…大丈夫」
小さく尾崎にだけ聞こえるように呟く。
「あ…なんか乗客の一人が…」
尾崎が手を伸ばして克己の無線のスイッチを入れたらしい。
「本部長!中で動きがあったようです」
尾崎が克己に顔を近づけて無線で呼びかけていた。克己が考えるよりも早い行動でさすがだな、と思ってしまう。
ザザッと音がして光流くんのお父さんの声が聞こえる。
『こちらもバスに接近中。拳銃所持の可能性ありなために不用意にはいかないが…時間が迫れば強行の可能性あり。もし何かあればすぐに。江村くん無線は繋いでおいて。中の詳細を詳しく』
強行でバスに?
でも確かに黙っていて爆発したら…どれ位の爆弾かは知らないが被害は大きくなるはずだ。
「さっき乗客の一人と見られる方が動こうとしたんですけど…今は元の位置に戻りました」
『相変わらず乗客は後方?』
「はい。犯人は前方で銃を向けて威嚇してるのも一緒です」
『窓はカーテンが引かれて、前方も見えないように大きな布を張っている為中の様子はこちらには全然見えない』
「でも…犯人は何度か窓から外を確認しているみたいですが…」
『その際も銃は乗客の方を?』
「はい」
克己は立ち上がろうか、何かしようとした人に双眼鏡を向けた。
若い男の人らしい。犯人をじっと見て何かを狙っているように見えなくもない。
「あの…さっきの乗客の一人の人が何かするかもしれません。あ、でも、すみません確証はないですけど」
『タイムリミットがあるようだから…何かするかもは…アリだろうね』
警察が外に待機してるのは分かりきっているはず。散々呼びかけやヘリの音などしているのだから。犯人が呼びかけにも何にも応じないのは爆破したいから…?
『突入は前方から。発砲は禁止。相手は化学教師で爆弾製作が趣味らしく簡易爆弾所持の可能性あり。また突入後、すぐに爆弾処理班突入。くれぐれも手荒にするな。爆発したら諸共の可能性だからな。慎重にかつ迅速に。合図はこちらで出す。待て』
緊迫感が克己にも冷や汗を流させる。
乗客の人が動く、多分…絶対。危険だ、と思うけれど…。
克巳の心臓も緊張にドキドキしている。
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