「もしもし」
尾崎の携帯に熊谷さんから電話がかかってきたのは尾崎にアパートに着いた時だった。車を駐車場に入れた途端見ていたかのように電話が鳴った。
「克己、明日署に午後に来てほしいって。付き合ってもらえます?」
「勿論」
「了解だそうです。ああ、では15時で?はい分かりました」
尾崎が電話を切り、そして車を降りると克己もだるい体で外に出た。
「抱っこしてあげましょうか?」
「…いらない」
本当はして欲しい位に身体が重い。
「明日は署に行く午後3時まで休みでいいみたいです」
「そうなのか?」
「ええ。ゆっくり寝ましょうか」
「ん……ホント疲れた」
はぁ~と克己が深く溜息を吐き出すと尾崎が克己の身体を抱えるように抱き寄せ、そのまま克己は体重を尾崎に乗せるようにして階段を上った。
「このまま寝ます?」
玄関を開けて入り、尾崎がそう聞いてきたのにも答えるのも億劫な位になってきた。
「寝る。連れてけ」
尾崎の背中に抱きついて全体重を預けると尾崎が笑いながら克己を抱き上げて寝室まで運ぶ。
楽チンだ。やっぱり階段も頼んだほうがよかったか、と思う位に。
それだけ克巳の体はもう限界だったらしい。
ベッドにそのまま横にされるのかと思ったら座らせられた。
「?」
そしてぽいぽいと着ていた服を脱がせられてからベッドに横にされる。
「…わざわざマッパにしなくとも…。あれ?尾崎はまだ寝ないのか?」
「寝ます。電気消してきますから」
「…ん」
そういえばシーツ変えたんだ…?
ほんの何時間か前まではぐちゃぐちゃだったはず。それがものすごく前の事に思えてしまう位に濃密な夜になってしまった。
はぁ、ともう一度溜息を吐いていると尾崎が戻ってきた。
ずっと尾崎がついていてくれたから平気だったけど、いなかったらどうなっていたのか?
あの好奇心の目は本当に悪寒がする位嫌なものだった。
克己を脱がせたように尾崎も裸になってベッドに上がってきて克己は自分から抱きついた。
肌が合わさるのが気持ちいい。裸で正解かもと思ってしまう。
「安心する」
「帰ってきたから?」
「それもあるけど…全部。ここは尾崎の匂いがするし、いるし、気持ちいい」
「そんな事言ったらまたスイッチ入っちゃいますよ?さすがに我慢しますけど。克己はかっこよかったですよ?」
かっこいい?
それは初めて聞く言葉だ。
「いきなり本部とか…ビビリました」
「嘘だ。全然ビビってなかったくせに」
「本当ですって。俺なんかヒラですからね」
嘘だ、と思ってると尾崎の腕が克己の身体を抱きしめてきた。
「かっこよかったのは光流くんのお父さんだ」
「あの人は昔からかっこよかったですからね。…それは分かるんですけど、俺の腕の中にいるのに他の男を褒めるのはやめて欲しいんですけど?」
むっとしたような尾崎の声にくすりと笑ってしまう。
「アンタは何しなくてもかっこいいよ」
「…胡散臭いって言ってたくせに」
「最近はそうでもないとも言っただろ?」
尾崎が克己の頤をくいと上げてキスした。お疲れさまのキスらしく軽いキスだ。
「ぐっすり眠ってください」
「…ん…。寝られそうだ…。家だったら寝られなかったかも」
冷えた部屋と尾崎の体温が気持ちよくてとろりとしてくる。心臓の音が響いてくるのも気持ちがいい。
尾崎が克己の頭にもキスしてる。こめかみあたりにもキスを感じる。
こんなくすぐったい夜は初めてだ。
興奮してるのに、身体が疲弊しきっているのに心は穏やかだ。
自分の変な力がまた一つ加わったはずなのにそこには何も不安は感じなかった。それも克己を認めてくれる人がいるからだ。
克己の言葉を信じて動いた光流くんのお父さんにはびっくりする。どこにも克己に対して疑いの目はなかった。
それに尾崎が何事もないように全部を受け入れて隣にずっといてくれたから自分も何も気にせずいられたんだと思う。
「尾崎…」
「ん?なんです?」
「…ありがとう」
「……何に対しての礼か分かりませんけど?」
「うん。いいんだ。言いたかっただけだ」
最初から尾崎は克己の全部を受け入れていた。嘘を言ってるとも思ってもなかったしそれに対してもなんとも思っていなくてただ普通の人のように受け入れていた。
「なんで尾崎は普通なんだ?俺は自分でも普通じゃないと思うのに」
「ん?力の事?そんなの特技の一つでしょ」
「…………そうか?」
「そうです。いいからおやすみなさい」
尾崎の手が克己の背を撫でてくれる。それは色を孕んでいない優しく包むような撫で方だった。
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