尾崎の用意してくれたご飯を食べて、顔を洗ったりをぐだぐだとしながら済ませればもう出なくてはいけない時間になっていた。
「…行くのやめますか?」
やっぱりだるいのが取れなくて身体は重い。
「ん~?いや大丈夫だって。本当にだるいだけ。今日は昨日の話をするだけで、あとは家帰っても何もしないし」
「それならいいですけど…。帰るんですね」
「か、か…える」
帰りたくはないというのが本音だ。
「でも尾崎も明日は普通に仕事だろ?」
「ええ。今日がイレギュラーで休みみたいなものですからね。来週の旅行の時まで休みなしです」
だったらやっぱり克己が尾崎のアパートにいても迷惑なだけだろう。克己が何かしてあげられるならいいのだが…。
だるい身体だが移動は尾崎の車だし楽なものだ。
署に着き、尾崎につれられて案内された部屋に行くといたのは光流くんのお父さんと熊谷さんだけでほっとした。
「お疲れ様です」
「やぁ!昨日は江村くんのおかげでけが人もなく事件解決できたよ!」
「いえ…」
「ちょっと克己座らせてもらっていいですか?身体の調子悪いみたいで」
「ああ…勿論」
尾崎が光流くんのお父さんにもぞんざいな口調でそう言ったのに驚いた。上司なはずなのに…。
部屋のソファに座ってはふ、と息を吐き出した。
「爆弾…本当にありましたか?」
「あった。あれが爆発してたらバスの乗客は助かったかどうか分からない」
「…え?」
そんなに…?
光流くんのお父さんが向かい側に座って神妙に頷いた。
「詳細も勿論江村くんの言っていた通りだった。突入のタイミングもね。乗客の一人が蹴って銃を落としたって、そのタイミングのあまりのよさに蹴った本人が凄いタイミングで来てもらったから助かったって。そりゃあね、江村くんが見てくれていたから。おかげで誰も怪我もしなかった。あのタイミングを逃していたら危なかったかもしれない」
手放しで褒められてどうにも居心地が悪くなる。
「いえ…」
「本当にね…助かったよ。江村くんのおかげで何人もの命が助かったんだ。ありがとう」
頭を下げられて克己は手も頭も横にふる。
「出来ることやっただけなんで…そんな」
「これからも嫌じゃなかったら協力してくれるかい?表立って君の功績に出来ないのが私としても心苦しいのだが」
「いえ!表立ってはいらないです!知ってる人に知ってもらえてるだけでいいので。俺なんかで役に立つなら…是非」
前はたいした興味があったわけじゃない、その後は唯くんがいたから、だった。今は自分で自分が役立つなら、と思う。
「具合が悪い中わざわざ来てもらって悪かったね」
「いいえ。ちょっと身体がだるいだけなので」
「後ろのヤツの所為じゃないのかい?」
熊谷さんがからかうようにさらっと意味深な事を言った。
「…え?」
「ん?」
にこっと熊谷さんが熊みたいな顔で笑ってる。
後ろって…克巳の後ろには尾崎が立ってる…けど。
「熊谷さん」
尾崎が低い声で熊谷さんに注意した。
「なんでもないです~」
もしかして…気づいてる?
さぁっと真っ青になりたい位だったが克巳はそうならないように堪えて表情が変わらないように気をつけた。
「さすが江村くんはガード固いねぇ。唯くんならもうバレバレなるとこだけど」
光流くんのお父さんがかなりの困惑顔で笑っている。
…武川刑事との事知ってるんだ…と納得した。そりゃああの二人は一緒に住んでるんだから分かるか。
へぇ、と思わず光流くんのお父さんをじっと見てしまった。黙認してるんだ、と興味が湧いてしまう。普通だったら許されないはずなのに。そういえば光流くんも応援しているっぽかった。
柔軟な人たちだな、と感心してしまう。
「そういえば光流が何回かお世話になったようで」
「あ。いえ…どちらかというと俺の方が世話になってる気が…」
ぴりっと後ろから突き刺さるような空気が流れてきた。
「……はぁ」
光流くんのお父さんは溜息を吐き出し、熊谷さんはお腹を抱えて笑い出した。
「尾崎、少しは隠せ」
「……なんの事でしょうか」
光流くんのお父さんが呆れ顔で尾崎を見ている。
「何の事でしょうかじゃねぇだろうが。ばっかだなぁ…だからまだまだ青いって言うんだよ」
「……すみません」
尾崎が素直に頭を下げている。しかも光流くんのお父さんがかなり砕けた話し方だ。
そういえば昨日尾崎は昔からかっこよかった、って言ってた。
「なんだ?尾崎から聞いてないのか?」
克己がじっと二人を見比べていると光流くんのお父さんが聞いてきた。
「……話してません」
尾崎はばつが悪そうな顔をして眉を顰め、光流くんのお父さんはくっくっと笑っていた。
「だろうなぁ。かっこ悪くて話せないだろう?」
「…………」
楽しそうに笑う光流くんのお父さんに、尾崎は無言だった。
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