尾崎が帰ってしまうと、部屋にいた尾崎の気配がなくなってかなり心寂しい気がする。
一緒にいる間はいいけど、ちょっと離れただけでこんなに寂しく思うなんて…。
今までずっと一人でいても平気だったのに。
いや…温かい腕を知ってしまったから寂しいんだ。知らなかったらそうは思わないだろうから。
「困ったな…」
克巳は苦笑してしまう。
もう尾崎のアパートに行きたくて仕方なくなっている。
克巳の部屋にも結構な長居を尾崎はしていったのに…。
今日は旦那様も帰っていらっしゃいませんし是非にと家政婦に言いくるめられ晩飯まで一緒に食べていった。いつも克巳がお世話になっているから、と。
顔を合わせて苦笑を小さく漏らしながらも克巳も嬉しかった。いつも一人の食卓が尾崎が一緒なんて。
広い家はいつでも克巳一人みたいなものだったのに…。
尾崎の部屋は好きだ。尾崎が克巳を置いて寝室を出ても尾崎の気配がすぐ分かるから。ベッドに入ったままでも尾崎がキッチンにいる事も全部分かるから安心していられるんだと思う。
この広い家ではどこでも一人のような感覚になる。
正直好きな人と一緒に暮らしている唯くんが羨ましいとさえ思える。
そしてそんな事を思ってしまう自分が恥ずかしくもなる。
自分がそんな事を考える日がくるなんて思ってもみなかった。
「やめやめ!」
自分の考えが乙女化してるようで一人で仄かに顔を熱くしながらそれを払拭させるために克巳はリモコンに手を伸ばした。
身体のだるさはまだ続いていたけれど気持ちは落ち着いているし気分も悪いわけではない。
ニュースをしているチャンネルを探せば昨日のバスジャックの事を詳しく解析しているところがあった。
犯人の異常な言動なんかも取り上げられていた。それは今日話を聞いてきて薬物も使っていたとか、銃も暴力団関係から手に入れたらしいとか聞いたが…、報道も同じ事を言っていた。
その外にもあの銃を蹴り上げた人物らしい人がヒーロー扱いされいいタイミングで警察が突入してくれたから、とか…。
自分が昨日あの場所の最前線にいたなんて克巳自身も信じられない位だ。
そういえば普通にテレビを見ている分には中は見えてないな…とふと不思議に思った。昨日は見ようとして自分から望んだから見えたのだろうか?
カードとかだと普通に見ようと思わなくとも見えるのだが…。
あ…この身体のだるさってもしかして余計な力使ったせいじゃないのか?
普段は見えないのに無理して見たから…?
確かにそうとも思える。昨日は尾崎とセックスした後だったからだるかったのはだるかったが、今日のは違うと自分でも思う。
…そうかも、と自分で納得して頷いた。
どうしよう?尾崎に電話してみようか?でもさっきまで傍にいたのに…。
でも…尾崎も随分ときにしていたし、と克巳は携帯を手にとって尾崎にかけてみた。
『もしもし?克巳?』
「ん…」
『どうかしましたか?具合悪くなった?』
「………どうかしなきゃ電話しちゃダメか?」
尾崎が一瞬黙ってからくすりと笑った。
『いいえ』
今のだと何もなくてただ尾崎の声が聞きたかった、ってだけのように聞こえるじゃないか!…いや本当はそうなのかもしれないけど…。
「今昨日のニュース見てたんだけど、俺の具合悪いのってもしかして力使ってた所為かな…って思ったんだけど…?」
『昨日の?』
「そう。カードなんかは意識しないでも見えなくてもいいのに透けて見えるんだけど、今はテレビなんかも普通にただの画面しか見えない。昨日は初めて自分の意思で見ようとして無理したんじゃないかと思ったんだ…」
『そうですね。確かに随分と集中されている感じはした』
「ん…。でもいつも署で地図と睨めっこしててもこんな風にはならないけど」
『分かりませんが、実際に目を使ってみるのとは違ってるからじゃないですか?昨日のは双眼鏡というのもあったかもしれないし、紙みたいに薄っぺらいものでもなくて大きなバスの中を見ていたから、というのもあるのかもしれないし』
「ああ…そうかも。どこが境目か自分でも分かっていないから」
克巳は自分の事だけど力の事だって全然分かっていない。
「だから…尾崎のせいじゃない…」
『………それ言いたかった?』
「…ん。だって…アンタ…気にしてた…だろ?」
『そりゃあ気にしてましたよ。俺がもう少し我慢すれば克巳が苦しい思いをしなくてもよかったのにって…かなり凹んでました』
「…そんなの気にする必要ないから。…じゃ、それだけ!寝る!オヤスミ!」
『あ…』
尾崎が何かを言う前に携帯を切ってしまった。
だって恥かしすぎる!きっと今ごろ電話を持ったまま尾崎は笑っているのかもしれない。
でもちゃんと伝えられたはず、と克巳は自分で満足した。
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