強張った表情を悟られないようにと平静を装いながら周囲を窺った。
テーブルにソファも黒。カウンターには酒が並んでバーテンがシェイカーを振っている。フロアは広すぎるというほどでもなく一望すれば客の顔の判別がつく位の広さだが、証明は極限まで落としてあり薄暗く、テーブル近くにペンライトが落ちてテーブルを照らしている。
克巳が案内された席の周囲には誰も座っておらず、今はカウンターにぽつぽつと二人ほど座っているのと、ソファ席の端の方に二人が座っている。いずれも壮年以上の男性客ばかり。そして克巳の座っているソファは広い4、5人ほどは座れるだろうソファだった。
来るのは雅彦だけではないだろうと予測する。
言われた時間は過ぎた。それでも来ないんだから帰ってもいいだろうか、と思った矢先に克巳を案内したボーイが重厚なドアを開けて客を迎えにだろう出て行った。
どうやらエレベーターの所にカメラでも仕込んであって店の中から客を見ているらしい。
「やぁ!待たせちゃってごめんね」
父親の会社の専務になっているだろうに軽い口調で現れた親戚に克巳は柳眉を顰めた。
こんなのが親戚とは…。
軽薄そうで酷薄そうな薄っぺたい顔だ。
そしてその雅彦と一緒に現れたのは父親に言った刀の件でテレビで見た議員と、バスジャック事件の時に同じテントにいた副警視総監だった。
最悪だろう…。
頭を抱えたくなる位に克巳にとっては最悪のメンバーだ。
議員には会った事はなかったが克巳の父親を一方的に敵視しているらしいし、副警視総監のほうはテント内での舐るような視線が忘れられない。
「ここでのルールは名前を言わない事。あ、荷物は預けた?」
克巳は小さく頷いた。預けたというよりも取られた、が正しいのだが。
携帯の使用も禁止だとバッグごと取り上げられたのだ。
雅彦は克巳の向い側に座り、残りの二人が克巳を挟むように両側に座る。
「へぇ…綺麗な顔をしている」
二世議員は四十台前半くらいだろうか?議員の中じゃまだ若い部類に入るだろうが、何しろ父親が大臣までした位で二世の名を欲しいままに利用している人種らしい。
「私も驚いたよ。血統書付きの綺麗な猫でね。しかも毛色が変わっているものだから飼いたいと思っていたんだ」
副警視総監が克巳の手をとって撫でてきて克巳はぞわりと悪寒が走りその手を払った。
「…躾はし直さなきゃいけないらしいな」
隣に座ったヤツの顔をみればニタリと不気味な笑顔を向けられて逃げ出したくなるが奥歯を噛み締めその衝動をやりすごした。
「しかしコレが本当に?」
二世議員が克巳の顎に手をかけるとくいと議員の方に向かせられた。
「そう。毛色が変わっているとも。先週のバスジャック事件でその能力を私は十分目にしたからね。しかも能力だけでなく十分楽しめると思うけど?君の趣味に合うと思うけどね?何しろキスマークをべたべたとつけてご出勤だったからねぇ」
くっくっくっと楽しそうに笑いながら副警視総監が克巳の首筋をつっと指で辿った。
「今日はついてないらしい」
議員の方が克巳の喉元を検分するようにじっと眺める。
「後ろは開発済みか…。楽しめそうだな」
にたりと議員に顔を近づけて笑いを見せられ、克巳はぞおっと背筋を凍らせた。
「私はそんな趣味ないのだが…でも確かにこの子なら食指が動くかもねぇ」
副警視総監もじっとりと舐る視線で克巳を顔から体まで視線を這わせる。
くいと今度は副警視総監の方を向かせられた。
「分かっているだろうね?君の愛しい男を私はどうにでも出来る」
克巳はぎり、と副警視総監を睨んだ。
「まだまだ反抗的な目を向けるようだねぇ」
「調教するのもまた楽しそうだけれど?」
両側に座ったオッサンに好き放題言われても克巳は睨める事しか出来ない。
「しかし縁戚なのに…身内を売るかねぇ?」
「仕方ないんです。叔父さんからは援助を断られちゃって」
二人のオッサンの視線が雅彦に向けられ、雅彦は悪びれもせずにくすくすと笑っている。
「ご自分の息子が売られるなんて思ってもみないでしょうね」
「アノ人は清廉潔白ぶってますから」
議員の方が憎憎しげにそう漏らし、そして克巳を眺め優越感を露わに見せる。
「ご自分の息子が裏で売られてるなんてきっと誰も教えませんよ?」
くっくっと満足そうに克巳を見ながら笑いを漏らしていた。
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