尾崎を守るんだ、とそう言い聞かせて昨日と同じ場所に足を踏み入れ、まったく同じ席に案内され、昨日に時間が逆戻りしたのではないだろうかと思う位同じ状況で、克巳は黙ってそこに佇んでいた。
現れるのは果たして昨日と同じメンバーなのかどうか分からないが、昨日の話しぶりだと違うヤツがくるのかも、とも思う。どっちにしろ克巳にはどうでもいい。
どうでもいいなんて投げやりになっているのだろうか…?
シニカルな笑みを浮かべた所で従業員がドアを開けた。
来るか、と身構えていると雅彦の姿とその後ろにさらに3人の姿が見えた。
え…?
克巳は後ろの3人の内の一人を一瞬だけ凝視してから慌てて顔を背けた。
「やあ、お利口さんにちゃんと待ってたね」
雅彦は上機嫌で克巳に声をかけてきた。
そんなのはどうでもいいが、動揺して克巳の心臓がやばい位にうるさい。
口を押さえて必死に心の中を落ち着けようとする。
顔に出すな。いつも通りにしろ。
必死に自分自身に命令を出していると雅彦の後ろからついて店に入ってきたヤクザ風の男二人が克巳を挟んで座った。
一人はブラックスーツに黒のシャツで、もう一人は白のスーツに青色のサングラスをかけている。どちらもまだ若そうだが強面だ。さらにもう一人の後ろからついてきたオッサンはその白いスーツのヤツの隣に座った。
雅彦は昨日と同じく克巳の向かい側だ。
「やぁ…困りましたな。いい話をいただいたと思ったらまさか竜…」
「しぃっ!名前はだめですよ」
雅彦が白いスーツを来た男の隣に座ったオヤジに向かって注意した。オッサンは心なしか落ち着きがない。
このオッサンも単品で見たら悪人面しているんだろうけど、ブラックスーツを着ている人物は若いながらもホンモノであろうし、そのホンモノの前ではやはり凄みは霞んで見えてしまう。
「すみませんね。急に飛び入りで私にまで話をいただいて」
「いえいえ!そちら様でしたら文句なしですからね」
克巳の隣に座った白いスーツの男が声を発すると、雅彦が遜った言い方で白いスーツの男に揉み手をしそうな勢いで話しかけていた。
…どういう事だ?
克巳の頭がパニックを起こしている。
じっくりと隣のに座った白いスーツのヤツの顔が見たい。けれどまさかじっと隣に座った相手を凝視するわけにはいかずにただ克巳は俯いて固まっていた。
「こいつはダチでね。すみませんね」
黒いスーツの男がいい声でくっくっと余裕の笑いを漏らしながら長い足を組んだ。克巳の隣で白いスーツの男もすらりと足を組む。
「仕方ないですねぇ。私は血統書付きの猫を一目見ただけで満足することにしますよ」
白いスーツの隣に座ったオッサンがゴマすりのようにぺこぺこしながらそう言っていた。
どうやら黒と白のスーツの方が若いけれど立場が上らしいが…。
「しかしお二人がご友人だなんて知りませんでしたよ」
雅彦も揉み手が見えそうなほど猫なで声だ。
「血統書付きの猫ねぇ」
よく知っている声だ。でも…本当に?
見た事のない指輪が嵌まっている手が伸びてきたと思ったら顎を捕まれ、くいと顔を上げさせられた。
白のスーツの男だ。
色の薄いサングラス。髪はルーズにだがきちんと計算されているようにだらしのない感じではない。白のスーツが下品になっていなくて中が白のシャツだったら結婚式か?と言わんばかりのような着こなしだ。それなのに雰囲気はどう見ても一般人ではない。
その男に青いサングラスの下から顔をじっと見られる。
やっぱりどう見たってこれは尾崎だ!
…な、はず。だが、雰囲気がまるで違う。他人の空似だと言われれば納得してしまいそうな気もするが克巳が間違うはずはない。
目に安心が出ないように気をつけながら白のスーツの男を睨んだ。
「…気が強いらしい」
くっと笑われると克巳はその手を振り払った。
尾崎の目だ。そのいつもは銀縁の眼鏡の奥だが今日は色の薄いサングラスの目の奥に憤りの色を見つけた。
「どれ?」
今度は黒いスーツの男が克巳の顔を覗きこんできた。
黒スーツの男には面白そうなこの状況を楽しんでいるかのような目しか見えない。昨日の二人のようなおぞましさは感じなかった。
尾崎と友達?本当に?多分尾崎の素性そのままでここにいるはずはないだろうけど…。
何が一体どうなっているのかが分からない。
ただ余計な事を言ったり変な態度はしないほうがいいだろうとその男の手も振り払った。
「ほう…?」
「すみません!気位が高いもので」
「構わない。ふぅん?かなり上玉であるのは間違いないな」
黒のスーツの男が楽しそうにくっと笑った。
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