「あ~、瑞希……ちょっと下に行くぞ」
下のフロアは近い将来宗が会社を創るための準備みたいな階。今はまだ宗の右腕になるだろう坂下さんが主に使って仕切っているけれど、指示は宗が出しているらしい。
絶対普通と違うと思う。
瑞希だって勉強は出来た方だと自負するけど何につけても桁違いだ。
今日は土曜日で瑞希は会社が休み。
「いいけど…。どうかしたの?」
「ん……?ああ………人が来るんだ。ほら、お前が誤解した女」
「え…?」
瑞希は一瞬やだな、と身構える。
宗が何とも思ってないといっても女の子の方が宗を好きだ、って目で見てたら?
それはない、って宗は言ってたけど分からないではないか。
でも宗は一つ一つ瑞希の不安を取り除いていってくれようとしているのだ。
小さくこくんと頷いた。
下の階に行くと坂下さんも今日は休みで誰もいない。
「コーヒーくらい入れとくか?……いや…」
宗が嫌そうな顔をしているのに瑞希は首を捻る。
そういえば瑞希を紹介しろって言ってたとかいってたような…?
ちょっと待つとインターホンがなった。
「……。いい、瑞希座ってて」
宗が立とうとした瑞希を押し留めて玄関に向かった。
「二階堂君!どこ!?あっ!」
やっぱりモデルみたいに綺麗な子が現れた。
だっと女の子が瑞希に向かってくるのに、宗も慌てて戻ってくる。
「?」
慌てた宗の顔にどうしたんだろう?と思ってると宗が瑞希の前に手を広げて庇うように立った。
「だめだ」
「ちっ」
は?
女の子の舌打ちが聞こえた、ような…?
「触るな!」
「いいじゃない。減るもんでもないでしょ」
「減る!確実に!」
「……分かったわよ。とにかく二階堂君どけて。邪魔」
邪魔?
会話がおかしい…。
「……宗?」
「…この女は川崎 恵理子」
宗が忌々しそうにしながら瑞希の前を避けて紹介してくれる。ソファに、宗は瑞希の隣に座ったが腕が瑞希の身体を引き寄せているのに内心うろたえる。
けれど向かいに座ってる女の子はそれを見ても動揺もしないで婉然とにたりと笑った。
「川崎 恵理子です」
「……宇多 瑞希です」
宗に抱きかかえられる状況で自己紹介なんて恥かしいがとりあえず顔は作っておく。
「……おいしすぎる」
はい?
どうも変だ。
女の子は食い入るように宗と瑞希を見比べている。
「…描いたらあげようか?」
「いるわけないだろう!」
宗が声をイライラと荒たげた。
「遠慮しなくていいのに」
「遠慮じゃない!…瑞希、これは宇宙人だ。気をつけろ」
「は?」
思わずきょとんとしてしまった。
「うわ!可愛い~~。二階堂君の前だと可愛いんだ!ふぅん…」
またにたりと女の子が笑った。
「瑞希!顔作れ」
一体なんなのか?
瑞希は眉間に皺を寄せた。
「萌える…。じゃ、私帰る。ますます楽しみだわ。宇多さん?よろしくね」
折角いれたコーヒーを出す間もなく、あっという間に嵐のように姿を消した。
「……あの子、何……?」
「…人外のものだ」
疲れたように宗が言った。
「だが恐ろしく頭が切れるし出来る。……んだが……やっぱ失敗か?」
宗が頭を抱えた。
「あの女の頭の中は妄想で成り立ってる」
「………?」
「はぁ……」
宗が深く大きい溜息を吐き出した。
後日、プレゼント!と川崎 恵理子に渡された小冊子。
宗は受け取るな!と喚いたけれど無理に押し付けられて瑞希は受け取ってしまった。
川崎 恵理子はすぐに姿を消して、瑞希はその中をそっと見てみた。
漫画みたいだ。
なんだ……、と思ったけど……。
「そ、そ、そ、そ、宗………?」
「……だから、受け取るな、って言ったのに……」
主人公が宗に似てる。自分に似てる。
そして…生生しい描写。
「な、な、ナニ、コレ………?」
「…………………気にするな」
気にするに決まってる!
「だから、あの女は妄想で生きているんだ。……兄貴達も紹介してやろうか……そしたら興味が半減するかも……」
「………それは、やめたほういいと思うけど。お兄さんとこ出入り禁止になっちゃうよ」
そうだな、と疲れたように宗が頷いた。
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