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追憶の彼方から放されたい 100

 「話が少し脱線しましたね…。それで丁度そのメールが来た時に克巳のお父さんも目の前にいたわけで。佐竹雅彦の事も話ししてその時俺は勿論警察官としていたんですけど、克巳のお父さんに警察官じゃなかったらどうしてる?と問われて勿論今すぐ乗り込んで克巳を取り戻してきます、と」

 「……は?」 
 「いや…つい」
 「つい?」
 「つい、ですよ。だって電話をもらってかなり動揺してましたからね。本当にその場から飛んで行きたい所でしたけど…落ち着け、とキミのお父さんに反対に諭されて」

 ………ええと?何がどうなっているんだ?
 「すぐに克巳の親父さんが警視総監に電話してくれました。お友達だそうで」
 「…知らない」
 「飲み仲間らしいですけど。あとゴルフ仲間?…多分」
 「…知らない」

 克巳は父親のプライヴェートなんか何も知らなかった。聞いた事もなかったし聞こうと思った事もない。
 「そのうち克巳が無事に外に出てきたって連絡が来て、克巳からも電話が入ったので安心しましたけど」
 …だから何度も電話をかけてきてたのか。何かあったか?って聞いて来たのか。

 「そこからは俺は針のムシロですよ?」
 「ん?」
 何が?
 克巳がきょとんとした。

 「キミのお父さんは俺がキミのお母さんの再婚相手の息子だって知ってました」
 「…は?どうして?」
 「どうしてってキミに近づいたから調べられたんでしょう」
 「だからどうして?」
 「キミは大事な一人息子ですから当たり前ですよ。今まで友達とも遊んだことないキミが一緒に出かけたり泊まったりしてるから調べたんでしょうね」

 「………」
 そんな事されてるなんて知らなかった。
 「ま、警察というのも嘘でもないですから別にそこは痛くもないんですけど、それで警察官でなかったらっていう質問なんですよ」

 「……俺との…事…知ってる…のか?」
 「ですね。いや、今は完璧に知ってますけど。なにしろ俺が宣言しちゃったんで」
 「…宣言?」
 「克巳は俺が守るし誰よりも甘えさせてやるし愛するって。…つい」
 「………つい?」
 このまま倒れて気を失いたい気分だ。

 「いえ、わざと親父さんが俺を試す為にだったんですけど……キミの事を悪し様に言ったもんでキレて…つい」
 「……アンタ…さっきからついって…つい、ですまないだろ」
 「そうなんですねぇ。でも本当にぶちきれちゃって…。親なのに何やってるんだってつい…克巳の親父さんの胸倉までつかんじゃって」
 はは、と尾崎が力ない声で笑いを漏らした。

 「…それ警察官として…クビじゃないの?議員に手上げるのと同じだろ」
 「うーん…。でもその時は俺は警察としてじゃなく克巳の恋人としてのつもりで、向こうは克巳の父親としてのつもりで話ししてたから大丈夫」
 いや普通は大丈夫じゃないと思う。

 「克巳の事以外だったら別に何という事もなく流せるんですけどね」
 「…俺………アンタの足枷じゃないか?」
 「どうして?だから言ったでしょう?俺が大事なのは克巳であってそれ以外はどうでもいいって」
 「でも刑事になりたかったって言ってたじゃないか」

 「そうですけど。それだって比重は克巳のほうが断然重いです」
 「…最初は俺を利用したくせに」
 「でもそうじゃなかったら出会えなかったのでいいんです」
 しれっと尾崎が開き直って答えるのに笑ってしまった。
 「すみません。克巳の知らない所でカミングアウトしてきて」

 「いや。別にいい。かえってそれなら簡単だ。尾崎の部屋にずっと行ってもいいな。だって別に反対されなかっただろう?」
 「…そうなんですけど…。ま、そこ等辺はまた詳しくあとで。それでお父さんには克巳を任せてもらえる事になって、今度はダチ連中に連絡入れて…。ああ、総監から好きにやっていいって許可もらったので、です。副総監の事は薄々気づいていたらしくて。監察なんかも入ってるらしいですけど尻尾掴ませないって。…あの店の中まで入るのは容易じゃなくて」

 「そうなのか?」
 「そ。あの店は政治家から大企業の社長様やら権力持った方々がお忍びでいっぱい来られるからね」
 「……ああ…握りつぶされちゃうんだ?」
 「そういう事。誰もがやばい事あっても口を噤む。西岡はあそこら辺りがシマだからね。それでツテ頼って、俺は梶原の身分借りて」

 「……いいのか?そんな事して…?」
 「いいんじゃない?バレなきゃ」
 バレなきゃって…。だってヤクザとダチって…。
 「西岡もシマで勝手にされてかなり怒ってたからね。キミの親戚はどうなるかな…」
 「……」
 くすりと笑みを浮べた尾崎の顔が相当怖い事になっていたがとりあえず克巳は黙っておいた。 
 
 
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