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追憶の彼方から放されたい 101

 「こんな感じですかね」
 …ですかね、って軽く言うけど。
 「克巳…俺は怒っていたし頼ってもらえないのかとかなり凹んだんですけど?なにしろお父さんにカムアウトして守ります宣言してきたのに当の克巳からは一言もなかったですからね」 

 「…だから…それはごめん」
 確かにただ克巳が一人で頭をぐるぐるさせるだけだった間に尾崎は色々と動いていたらしい。
 簡単に雅彦から約束を取り付けたわけじゃないのだろう。
 その間に色々手配したりしていたはずだ。

 「あ…そういえば尾崎に尾行か何か…ついてた…?」
 「ついてましたね。警察の動向と俺の行動を探ってたんでしょう?」
 「…らしい」
 ちゃんと尾崎はそれにも気づいてたんだ。 
 やっぱり何に対しても不勉強で頭でっかちな克巳なんかとは全然違うんだ。勿論尾崎は警察官でもあるし当たり前だろうけど…。

 「尾崎…」
 「ん?」
 克巳はつんと尾崎のバスローブを引っ張った。
 「すっごい…昨日は不安で…今日も怖かった」
 「…うん」
 尾崎は克巳の手を握ってくれた。なんかそれもちょっと恥ずかしい気もするが、甘えさせてくれているのだと思う。

 「尾崎の顔見て…安心して…泣きたくなった」
 「…すぐに分かりました?雰囲気も変えてたのに?」
 「普通は分からないかもな。まったく身にまとう雰囲気が違ってたから。どう見ても一般人じゃなかった」
 「………そう言われるのも複雑な気分なんですけど」
 「でも俺はすぐに分かって…。あ、でもちょっと途中は本当かって信じがたくなったけど」

 「キミは出来た子ですよ?ちゃんと態度も変えずにいましたもんね」
 「そりゃ…」
 尾崎がなんであそこにいたかといったら克巳の為でしかないわけで、それを台無しに出来ないから…。
 「克巳を助けられればそれで俺はいいんですけど、折角なんで捕まえちゃおうかと。何しろ克巳は触られたらしいしね」

 「でも手とか顎くらいだけだぞ…?一番酷い事したのはアンタなんだけど?」
 「え?ああ…克巳の肌見ていいのは俺だけなんですけどね。あれは隠し事した克巳に対してのお仕置きの一環ですからね。仕方なくです。ちょっと自慢したかったってのもあるけど」
 「………俺疲れたから寝る」

 ばふんと布団を被ると尾崎が笑って電気消しますよと声をかけてきて部屋が暗くなった。ベッドサイドのルームシェードの明るさも暗く尾崎が調整してそしてベッドに入ってきた。
 「克巳」
 尾崎の腕が克巳の身体を引き寄せてすっぽりと包んでくれる。

 「バスローブ脱がしますよ?」
 「…またするのか?」
 「いいえ。肌を合わせて寝るだけちょっと克巳に酷い事した自覚ありますから今日はもうしません。いや…これから先もしません」

 「…別にいいって言ってるのに」
 「いや!マジでそういう事言うのやめてください。ホントやばいから」
 「別にいいって。そりゃ毎回はちょっとキツいけど…たまになら。けっこう尾崎の野蛮なとこもカッコイイから…」
 「いいからもう黙ってキミは寝なさい!」  
 尾崎の手はもうバスローブを取っていて肌を撫で、克巳の背中を撫でてくれる。

 「…気持ちいい」 
 「…安心して眠って」
 「ん…尾崎が…久しぶりな気がする」
 「…忙しかったから…すみませんね」
 「いや…俺…もっと尾崎の部屋に行ってていい?…足りない……感じ…」
 こんな事言うのも恥ずかしいが恥ずかしいよりも一緒にいたいという気持ちの方が勝ってしまう。

 「いくらでもと言ったはずなのに。俺の許可なんていりませんから。いつでも。ずっとでもいいですし?」
 そうしたいとこだけど…どうなんだろう?
 でも自分が尾崎の部屋に行っても何も役に立たないし…。料理とか出来ればいいのかもしれないがした事なんて一度もない。
 精々学校の家庭科位だったけど、それだって何も分からないからほとんど眺めていただけだった。

 でも今はそんな事考えるよりも先に克巳の置かれている状況だ。
 「俺…どうしたらいいんだ?」
 「ん?何もしなくていいです。多分連絡入るでしょうからね」
 「…どうやってどうなってるのか全然分からないんだけど…?」

 「俺もすべて分かってるわけではないですが…多分顔合わせて克巳の値を吊り上げようとするでしょうね。佐竹は資金繰りがかなり大変な所まできているらしいし。…それにしても克巳を売るとか…」
 はぁと尾崎は呆れた溜息を吐き出す。
 「逮捕してやります。キミは心配しないで安心してなさい」

 尾崎がぎゅっと克巳を抱きしめ、その体温に克巳は目を閉じた。
 昨夜は尾崎のベッドにいたけれど体温がなくて何度も夜中に目を覚まして体温を探した。今日は安心出来るらしいとほっとして目を閉じた。

 「…おやすみ」
 尾崎が克巳の前髪を上げ、額にキスを落としてくれる。
 くすぐったい…と思いながらおやすみと返す事も出来ない位にもう眠気がそこまできていた。
 
 
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