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追憶の彼方から放されたい 102

 「いいですか、必ず連絡が入ったら知らせてください。時間をずらされるおそれもありますから。…多分大丈夫だとは思いますが…」
 尾崎に自宅まで送られてきて、克巳の部屋までついてきて注意された。
 「分かった」
 神妙にして克巳が頷く。

 「…あと今日はおとなしくしてて?身体は平気?」
 「大丈夫」
 尾崎はちょっと乱暴にした事をかなり気にしているらしい。別にいいのに。かえって克巳はいつもと雰囲気の違う尾崎にドキドキした位だ。
 今日はもうすでに銀縁で髪もセットされいつもの尾崎になっている。

 「俺ワイルドっぽい尾崎の方が好きかも…。いつもは嘘くさくて胡散臭いから」
 尾崎ががくりと肩を落とす。
 「あのね……。………まぁいいです…俺の素のほうがいいなんて変わってる…」
 「そうか?でもないと思うけど」
 克巳が笑みを浮べると尾崎もふっと表情を和らげた。

 「ご飯もちゃんと食べるように。なにか気がかりがあれば一人で悩まないですぐに言いなさい。いいですね?」
 「…ん」
 心配されるのも嬉しいもんだ…と少し照れくさい。
 「尾崎も気をつけて…本当に大丈夫か?行ったら懲戒免職なってたとか…ない?」
 「ないですって!…多分?」

 多分?と克巳は眉を跳ね上げると尾崎が笑った。
 「そんな事なってたら同僚から何したんだ?位連絡入るでしょう?」
 「あ、そっか…」
 克巳がほっとすると尾崎が苦笑している。
 「俺の事よりキミは自身の事考えて。克巳に何かあった時は俺は懲戒免職なるような事自分からする自信ありますからね?」

 「……」
 それは脅しだろうか…?
 「なのでまず克巳は一番に自分の事守ってください。それが一番俺にとっては穏便です」
 「……分かった」
 尾崎が薄く笑みを浮べたけど目が笑っていない。

 「じゃ仕事行ってきます」
 「ん…行ってらっしゃい。気をつけて」
 尾崎は目を嬉しそうに細め克巳の眦にキスした。
 「行ってらっしゃいなんて言ってもらえるのいいもんですね」
 「…早く行け」

 真面目にそんな事言われて恥かしくなり追い出すように尾崎に言った。
 くっと尾崎は笑いながら克巳の部屋を出て行くと克巳ははぁと溜息を吐き出した。
 あまりにも考える事がありすぎてどうにも頭の中が混乱している。
 尾崎はさらっとしか説明してくれなかったけれど克巳の知らない所で色々と動いていたらしい。しかもそのどれもが克巳の為だったらしいが…。

 そういえばありがとうと言ってなかった。
 …ちゃんと終わったらありがとうと素直に言わないと。
 それにしても…。

 まさか父親に言ってるなんて。きっと家政婦から尾崎の事は報告されていたのだろう。泊まっても出かけてもそれに対して何も言われた事はなかったが把握されていたらしい。
 警察に力を使って協力してるのももしかして知っているのだろうか…?

 克巳は知らなかったが警視総監と飲み仲間という位なら克巳の事も知っているのか?別に知られていても克巳は自分のしたいようにするつもりだし何を言われても関係はないが…。
 自分のこの人とは違う力が役に立つならそれでいいと思う。ずっと疎んじて来た力だった。それが今は仲間と思えるような唯くんの存在があるし、理解してくれる人がいる。それに頼れる恋人が…。

 克巳はちらとTシャツの首から自分の身体をのぞき見た。
 服に隠れて見えないところには尾崎につけられた痕があちこちに残っている。
 昨日の朝の尾崎の態度もなるほど、話を聞けば納得できる。克巳が一人で気負ったってどうしようもないのにそりゃ面白くないはずだ。

 何一つ尾崎に気の利いた事も言えないし出来ないのに尾崎は克巳を優先して考えてくれている。
 何か自分に出来る事はないのだろうか?と考えたって何も思い浮かばない。
 「ホント役立たずだな…」
 高校生の唯くんだって家事したりしてるのに。
 …また考えるのが尾崎の事になっている。そうじゃなくて、と頭を切り替えた。

 雅彦は克巳を売って資金繰りに当てるらしく尾崎は捕まえる気だ。副総監も捕まえるのだろうか…?警察の不祥事…しかもかなり大きい事になるだろうけどいいのだろうか?
 そんな事は克巳の考える事ではないだろうが…。
 それにしてもヤクザとダチとか…どうにも尾崎の交友関係が不思議だ。

 「んー…」
 克巳が考えたって仕方のない事ばかりな気がする。せいぜい尾崎の邪魔にならないようにする事を考えた方が得策かもとごちゃごちゃしてる頭から考える事を追い出した。
 
 
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