電車を乗り継いでわざと人の多い所を縫うように移動したりしながら雅彦に振り回されるままついていった。
そして駅から出たと思ったらタクシーに乗った。
これも人に見られないようにするためだろうか?
運転手に目的地を告げた後も雅彦は後ろを気にしたりして落ち着きない様子だ。
克巳も気にしたい所だったがやめておく事にする。ここで足掻いても仕方ない事だ。
尾崎を信じる。そう決めたんだから。
どこに向かっているのか…。
電車をあんなに何度も乗り継いだりしたわりには距離的に離れたわけではない。それでもあんなに人の間を行ったりきたりすれば確かに尾行は撒けたのかもしれない。
「そこを左折した所でいい」
雅彦が運転手にそう告げ、運転手は角を曲がった所でタクシーを止めた。
小さな公園の前だった。
後部座席の奥に座っていた克巳は雅彦が金を払うのを黙って見て、そして払い終えた雅彦が視線でついてこい、と告げてきて素直に車から降りる。
雅彦の手はもうずっとスーツの内側から手を離さないのだ。
警戒してるのも分かるけど…。もう見ただけで怪しげな行動なのは誰が見ても分かりそうな感じだが。
はぁ、と小さく克巳は息を漏らした。
「来い」
雅彦に促されて公園をぐるりと迂回するように歩く。
公園では子供の遊ぶ声が聞こえていた。夏休み中だから小学生の子も多数見える。
こんな所で銃なんか出されたら…。ひやりとしてしまうが、克巳がそう思う事がきっと雅彦の思惑なのだろう。そう克巳が考えれば逆らいようはないのだ。
「いいか、逃げる素振りをしたらそこら中にぶっ放す」
「…逃げないから…それはやめろ」
ふんと雅彦に鼻を鳴らされた。
「いい子ちゃんだな」
馬鹿にしたように雅彦に言われた。
「…普通だろ」
「その澄ました横っ面を殴ってやりたい位だが…。傷つけたら怒られるだろうからな。まぁこれからお前の身に起こる事考えれば溜飲も下がるか!」
はっと楽しそうに笑いながら肩を揺らして雅彦が歩くすぐ後ろを克巳はついていった。
五分も歩かない位であるビルの中に入っていく。真新しいビルで一階はテナントになっているらしいがまだ入居者はないらしい。上はマンションになっているのか、それも人の気配がなく、匂いがここはまだ誰も住んではいない事を教えているような感じだった。
「声出しても誰もいないぜ?分譲マンション売出し中で入居はまだだからな」
エレベーターも動いていないのか階段で上っていく。
暑い夏の日差しの中少し歩いただけでも汗が流れる。まして空気が動いていない中は蒸し風呂の様に感じられた。
「……誰?」
「行けば分かるさ!」
二階、三階、四階と階段を上っていく。
「階段はいただけねぇなぁ…」
ここで逃げたらいいだろうか?今だったら人はいない。でも追いかけられて撃たれたら?ホンモノじゃない可能性だってあるし…。
階段から外が見える。
…だめだ。ちらほらと人が歩いているのが見える。
「逃げるなよ?」
克巳の心情を読み取ったように雅彦が笑った。
「ここだ。観念しな?本当はもっと高く売れるはずだったんだけどなぁ…警察の尾行ついたし、怪しい雰囲気になってきたから仕方ねぇよな」
六階の一室の前で雅彦は足を止めどんどんとドアを叩くと中からがちゃりとドアが開く。
ドアを開き、そこにいたのは副警視総監だった。
「連れてきましたよ。約束の金をお願いします」
雅彦に背中を押されるようにして中に入れられた。工事は終わっているらしく内装も済んでいたがただ何も物はない。エアコンのみが着いていてここだけが涼しくなっている部屋にひどく違和感を覚えた。
何もないけれど、三脚とビデオカメラだけは設置してある。何を…?
「金だ」
ぽんと副総監が雅彦に向かって無造作に小さな紙袋を投げてきて床に滑った。
「どーも。なんでこんな男なんかがいいのか趣味わかんねぇけど。確かに顔は綺麗なツラしてるけど」
「人の趣味はほうっておけ。これはちょっと毛色が違うからね。普通の人じゃないから。そんな子を自由に出来るってのはいいと思わないのかい?」
「ああ?何か変な力でしょう?ちっさいころから親戚中でもこそこそ言われてたけど」
「実に素晴らしかったよ!ぞくぞくしたね…」
舌なめずりしそうな顔で克巳の姿を眺める絡みつく視線に背中には悪寒が走る。
…尾崎!
克巳は心の中で早く、と白くなる位手を握り締めた。
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