尾崎が山口さんに病院に向かう途中で克巳のTシャツを何か買って来いと言い張り、病院が先だという克巳の主張は通らず警察の車両を道路に路駐して山口さんが店に走った。
「病院のが先だって!」
「だって克巳の身体見せられないから」
「……誰が見せられない身体にしたんだよ!しかもいっぱい人に見られたじゃないか!」
「……ですね」
間違いなく刑事達にキスマークだらけの体は見られたんだ。
あの場は混乱してたから誰もそんな所に突っ込まなかったけれど後から絶対何か言われそうな気はする。
タオルで押さえた尾崎の肩はそのタオルにも血が染み出ていた。
「…痛いか?」
「まぁね。でも全然平気です。克巳に何もなくてよかった」
尾崎が克巳を抱きしめ頭にキスする。
「本当はちゃんとキスしたいとこですが…さすがに警察車両でそれはマズイから…。残念ですけど」
「当たり前だ」
克巳は尾崎のスーツの上着に上半身をすっぽりと包まっている。
「…気持ち悪かった…」
「ん?」
尾崎が何度も足りないといわんばかりに克巳の頭にさりげなくキスしているがそれを咎めはしない。本当は自分だってキスしたいと思ってるんだ。
「触られて…気持ち悪かった…」
「……どこ触られました?」
尾崎の声が低くなる。
「身体。腹とか…」
「俺の病院なんかより早く克巳の身体を消毒したいとこだけど…」
「ばか!病院が先に決まってる!血が…」
「よく目配せで分かりましたね」
「あ…そりゃ…ん…」
尾崎の声が柔らかくなった。
「怖かったでしょう?だから行くなと言ったのに!」
「だって…ごめん…」
あ、また謝るばかりになってる。
「ありがとう…。助けに来てくれるって…信じてた、から…。来てくれて嬉しい」
「当たり前です。克巳…ああ…キスしたい」
はぁ、と尾崎が克巳の頭に自分の頭をつけて大きな溜息を吐き出す。
「買ってきました!」
そこにがちゃっと尾崎の相棒が帰ってくればまた尾崎からは溜息だ。
「克巳、着ちゃって」
「…ん。あ、あの…すみません。ありがとうございます」
尾崎の同僚にも礼を言うと山口さんがいいよいいよと言いながら運転席から後ろを振り返った。
「………山口?何してる?」
「何ってお着替えするとこ見せてもらおうかと」
じっと克巳を見ていた山口さんに尾崎はぬっと手を後部座席から伸ばして山口さんの頭を上から押さえつけた。
「これじゃ見えないっ!」
「克巳、今の内にさっさと着る」
「え…あ、…うん」
タグも外してもらったのか何もついてなくて克巳はそのまま買ってもらったTシャツに腕を通した。
「尾崎さん、少し位は見せてくれても」
「ふざけるな」
「ふざけてませんけど?」
「尚悪い!」
「だって~…目の保養…」
「うるせぇ」
尾崎が克巳がTシャツを着たところで手を離した。
「ほら車出せ!」
「……はぁい」
「ったく…油断も隙もねぇ…」
ぶつぶつと尾崎が呟いているのを聞いてやっと克巳は本当に緊張が抜けてきた。
はぁ、と息を吐き出し身体の強張りを解くと尾崎が克巳の足をぽんぽんと宥めるように叩いた。
そして克巳の背に腕を回してそっと身体を寄せられる。
もう大丈夫だ…。
尾崎と隣り合ったからだから尾崎の温かい体温を感じる。
銃弾は掠めただけだったからよかったもののもしそれが頭とかに当たっていたら…。
それを考えれば怖くなるがもし、を考えても仕方ない。それを考え出したら止まらなくなってしまう。
もしもっと尾崎が来るのが遅かったら?
大丈夫。そうはならなかったし尾崎も大丈夫だ。
…よかった、と今はそう思えた。
終わったんだ。
「尾崎…」
「うん?」
「あの…雅彦は逮捕だろうけど…」
副総監というアレはどうなるのだろうか…?
その克巳の言いたい事を尾崎は悟ったらしく肩を顔を歪めながら竦ませた。
「……俺にも分かりません。上のすることですからね。下っ端がいくら騒いでもかえってこっちの身が危なくなるばかりで…。許せない事ですが…」
「……そうか」
「すみません」
「いい。尾崎が謝る事じゃない」
やりきれないのは尾崎も同じだろう。いやむしろ警察官の尾崎の方が理不尽だと思うかもしれない。
罪を犯しているのに捕まらないなんて…。
尾崎が間違っていないならそれでいいとさえ克巳は思う。尾崎はちゃんと約束を守ってくれた。助けに来てくれた。
「…ありがとう」
「……当然です」
ぐっと克巳の背に回った尾崎の腕に力が籠もった。
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