しばらく克巳が落ち着くまで尾崎は何も言わずに抱きしめてくれていた。
「…落ち着いた?」
小さく克巳が頷くとじゃあ薬貰って帰りますよ、尾崎は個室を出た。
何も尾崎は言ってくれない。
怒ってるのだろうか…?
「尾崎さん、薬貰っておきましたよ!」
「ああ、悪い」
山口さんが電話を終えて戻ってきてたらしい。
「じゃあ送って行きます。江村くんは自宅?」
「いや、俺のアパートでいい。克巳の自宅には連絡済だ」
「あ、そうなんですか?」
克巳は自分の我儘で叶った事に素直に喜べずずっと顔を俯けていた。
尾崎が自然に克巳の横に立って克巳の背に手を副えてくる。
自分の方が左腕を動かせない位の怪我をしてるのに…。
「しばらく病院通いですね」
「…まぁな」
山口さんは克巳の様子に気づいていないのか、それとも気づいているけどわざと知らないふりをしてくれているのか、克巳をそっとしておいてくれたまま車に戻った。
「どっかで弁当か惣菜か買ってくから寄ってくれるか?さすがに今日は自炊は無理だわ」
「でしょうね。了解です。あ、それと明日はゆっくりでいいので江村くん連れてきてって武川部長が言ってましたよ」
「じゃ明日適当に迎えに来てくれるか?俺の車本庁に置きっぱだからな。明日また電話する」
「運転はまだ無理でしょ!片手運転になっちゃいますからね。了解です。それと佐竹は逮捕で今余歴の追及中らしいです。色々やってるから…。副総監は懲戒免職にはならないっぽいです。横槍入ったみたいですよ」
「……馬鹿ボンの親父か?」
「でしょうね」
「…嫌になるな…、いっそあそこで撃ってしまえばよかったか?流れ弾に当たったって事にして」
「あははは…尾崎さんマジでしそうで怖いスけど?」
「当たり前だ。マジだからな。…もう遅いがな…」
二人の会話は聞こえていたけれど克巳は猛省中で何も会話が頭の中に入ってこない。
もう嫌われたのだろうか?どうしたらいいんだろうばかりが頭の中をぐるぐると回っている。
でもそうじゃないって…言ってた。でも…。
「山口、財布。惣菜を適当に買ってきてもらっていいか?あと明日の朝用の食パンとかも。あ、牛乳も頼もうか」
「いいですけど。あとは?」
「適当に」
「適当が一番困るんだけどな…」
「ああ、何か甘いものあってもいいかな」
「……了解です」
スーパーに着いていたらしく克巳はぼうっとしたまま尾崎から顔を背け外を眺めていた。
隣に尾崎が座っているのに隣を見るのが怖い。もし尾崎が嫌そうな顔をしていたらどうすればいい?
「克巳」
尾崎に呼ばれて克巳は小さく頭を横に振った。
「ああ、そういえば克巳の携帯本庁にありますから。車の中に置きざらしになってたやつ。明日返しますね」
こくりと外を向いたまま頷く。
「こっち向いて」
向けない、と克巳は首を横に振る。
「かつ…」
尾崎が克巳を呼ぼうとしたらしいが尾崎の電話が鳴った。
チッと尾崎が舌打ちしながら電話に出る。
「はい尾崎です。…いえ、大丈夫です。はい」
尾崎は同僚か誰かからで怪我の具合なんかを聞かれてきたらしい。
「落ち着かないな…克巳、家に行ってからちゃんと話ましょう」
克巳は小さく首を横に振った。
だってもしもう無理だなんて言われたら?
自分が我儘言ったのは分かっている。こんな自分といたって尾崎には迷惑ばかりかけてるのに…それなのに自分の欲ばかりを言うから嫌になったに違いないのに。
「克巳…」
「お待たせしました」
山口さんが買い物袋を手に戻ってきてチッとまた尾崎が舌打ちを漏らすのを聞き、びくんと克巳は身体を揺らしてしまう。
怖い…。
尾崎に何を言われるかが怖くて仕方ない。
ただ怖いんじゃなくて足元が崩れそうな不安定な怖さだった。今日の銃を向けられていた時とかの怖さと種類が違う。
話って何をするんだろう?
もう克巳とは付き合ってられないとか…?
だったら話なんかしないで帰った方がいい。そうしたらそんな嫌な話しは聞かなくて済む。
「俺…帰る」
「何言ってるんです。お父さんにも連絡したのに」
「でも…」
尾崎の声が低くなった。
「ダメです」
どうして…?さっきはあんなに克巳に帰れって言ってたのに…。
「…車出していいですか?」
山口さんが恐る恐る聞いてくると尾崎が出せ、と頷いた。
そこから尾崎のアパートまで車の中は無言になってしまった。尾崎が不機嫌になって口を開かなくなり山口さんも自然に黙ってしまったからだ。
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