尾崎にアパートまで着くと山口が手の使えない尾崎の代わりに荷物を持ち車を降りる。
尾崎は無言で使えるほうの手で克巳の腕を掴むと、逃さないと言わんばかりに力を込めて克巳の腕を引っ張り尾崎の部屋まで連れてこられた。
「じゃあとは俺行きますね。明日また連絡ください」
「分かった」
尾崎が玄関先で山口さんに挨拶してそして山口さんは帰って行った。
「克巳」
ぐいと尾崎が克巳の腕を引っ張るとそのまま風呂場に連れて行った。
「身体、洗ってください」
「……え?」
「俺が全部洗ってあげたい所ですけど包帯巻いてるんで無理です。なので自分で洗って」
尾崎の声が硬い。…怒ってる?克巳が無理を言ったから?
「いい…帰る」
「もうダメ」
「だってさっき病院では帰れって言っただろう!」
「言いました。でも克巳が一緒にいたいと言ったでしょう」
「そうだけど…。尾崎がそう思ってもないのに…」
「……誰が思ってないって?」
尾崎の声がわりとずっと低めだったのがまたさらに一段と低くなる。
「キミの事を思って帰った方がいいって言ったのに」
「なんで?俺…?…俺は…尾崎といたいのに…」
「滅茶苦茶にしそうだったんですよ!今だってね!」
克巳はぱっと顔を上げると尾崎の顔を見た。
「キミの肌に触れられたのが面白くない。かなりね…。助かった時はほっとしたけど…それ以降はもう自分の中が理不尽な思いでぐつぐつと燃え滾っている。自分が抑えきれないほどに…。だから帰った方がいいって言ったんです」
「………」
尾崎が顔に渋面を浮かべて苦しそうに吐き出した。
「俺……嫌に…なられてない…?」
「はぁ!?」
「尾崎に…もういらないって…言われるかと…」
「………………なんでそうなる…?」
「だって…俺…尾崎に迷惑しかかけてないし…怪我までさせちゃったし…何にもできないし…」
克巳はどうやらまだ尾崎に愛想をつかされたわけじゃないらしいと安心するとまた泣きたい気分になってきた。
ずっと病院からいついらないと言われるかと不安だったのだ。
ぐずと鼻を鳴らし始めると尾崎が怪我してない方の腕で克巳を抱きしめた。
「…バカですね」
「だって…個室入ったときも…キスもなかったし…」
「当たり前です。キスしたら止まらなくなるに決まってる」
…決まってる、のか…?
「今だってかなり抑えてますからね。俺の怪我なんて大した事ないしどうでもいい。克巳をさっさと剥いて洗って点検して突っ込みたいんです」
突っ込み…って…。
「どれだけ心配したか分かってますか?」
「ごめん…」
「克巳は全然分かっていない」
そうかもしれない…。尾崎はずっと克巳の事を心配して…。
「尾崎…ありがとう…。ホントに…あの…今日一緒いたかったの…尾崎が心配ってのもあるけど…それ以上にその…触って欲しくて…気持ち悪いんだ…触られたとこが…だから…」
「……消毒してほしい?」
克巳は小さく頷いた。
触られた感触が残っている。それだけでそこから腐敗が進んでいきそうに思えてくるんだから…。
「シャワー。俺も入る?」
「ダメだろ!いい、それは自分で…」
「じゃ見て点検しといてあげますから自分で洗って綺麗にして?」
「…いや、見なくても」
「ダメ。ずっときちんと確認してなかったから…詳しく全部確認しないとね」
尾崎がそう言いながら克巳にキスしてきた。噛み付くようなキスで余裕なんかないようなキスだ。
「お、ざき…」
尾崎が怒っている感じだ。イライラと。それを直接克巳に向ける事はないけれど、でもずっと苛立っている。それをさせているのはきっと克巳だ。
「尾崎…」
克巳は自分から尾崎の頬に手をかけて舌を突き出した。
「キスは…?」
尾崎がキスの合間にそっと聞いてくる。
「されてない」
「……よかった」
ほっとしたように尾崎が囁き、少しばかり尾崎の口角が緩んだ。それに克巳もほっとしてしまう。
「あの…別に下だって触られてないし…その前に尾崎来たから…ホント…大した事ないんだ。ただ…俺が嫌だったってだけで」
「嫌なのは当たり前です!しかし…大した事ないって?そういう事言うんだ?……さ、服脱いで」
尾崎は克巳を離し、風呂場のドアを開けたまま自分は脱衣所の壁によりかかった。
「ここで見ててあげますから。自分で身体綺麗にしてくださいね?」
「…見なくていいって…」
「ダメ。俺が行くなって言ったのに言う事きかない悪い子にはお仕置きって決まってるでしょう?」
「…決まってない」
…と思うけど。強く言えない。
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