真実は何一つ報道される事はなく、雅彦が会社の金の横領や使い込みで逮捕され、逮捕の際に発砲したって事だけだった。
「…随分簡単な報道だな」
映像は護送されるところのみだった。
「色々上が絡んでるから…全部明るみに出る事はないですね」
「……だろうな」
克巳の存在も一つも出ていなかった。まだ未成年だし名前が出るなんて事は勿論ないだろうけど、あの場にいた事も何も出ていない。そしてあの場所にもう一人いた事もだ。
確かに現副総監が…なんて出たら大騒ぎになるはずだ。
「…嫌になりますよね。犯罪者を捕まえるのが仕事のはずなのに…すみません」
尾崎が苦々しそうな口調だ。
「……尾崎が謝る事じゃないだろう?俺は別に…真実が分かっていればいい。尾崎が助けに来てくれた…それは俺が分かってればいい事だから」
尾崎は何も言わずに自由に動く方の腕で克巳の頭を抱きしめた。
別に克巳は真実を求めているわけではない。はっきり言ってどうでもいい事だった。
こうして無事で尾崎といられるならそれでいい。
いいけど尾崎が自分の所為で怪我した事だけが申し訳ないと思ってしまう。
「怪我は克巳は気にしないで。克巳を守れた証ですし、克巳が世話焼きをしてくれるのでむしろ嬉しい位です。積極的だしね。不満は自分の身体がいうこと利かない事だけど…」
尾崎が軽い口調で克巳が気にしている事を軽減させてくれるように言った。
「克巳は身体は大丈夫ですか?慣れない事したから」
「…大丈夫」
自分から尾崎に乗っかって受け入れたなんて…確かに自分ではありえないけど…どうしても昨日はそうしたかったなんて即物的だ。
「尾崎のほうこそ…傷は大丈夫か?」
「大丈夫ですよ?動かしてないですしね。しばらくは克巳に昨日みたいにしてもらったほうがいいかな…」
「傷治るまでしない」
「………………無理ですけど?」
尾崎が銀縁の眼鏡の下から何言ってるんです?と言わんばかりの目で克巳を見た。
「そんなことより!髪、そのまま?」
「え?ああ…仕方ないからこのままでいいですよ」
尾崎はいつもきっちりセットしてるのだが左腕をあげられないので髪を洗って乾かしただけで前髪が下りたままだ。
「仕事は今日は休みみたいなものでしょうしね」
いつもはエリート然としているのが前髪が下りてるだけで克巳的にはどこか落ち着かない感じに思える。いつもプライヴェートの時しかこんな髪型をしてないからだ、きっと。
「克巳はセットしないほうがいいのかな?」
克巳が落ち着かない事を尾崎は分かっているらしい。
「そうじゃないけど…いつも仕事の時は…セットしてるし…」
セットされていると胡散臭さが倍増するのに前髪が下りていると若く見えるから落ち着かないだけだ。
「ふぅん…克巳は髪セットしない方が好き、と」
「べ、別に!そんな事言ってない!」
そんなじゃれ合いをしているうちに時間は過ぎ、迎えの車がやってきて尾崎と克巳は克巳の家に向かった。
何を言われるかと密かに克巳は緊張したが、後部座席に並んで座っていた尾崎はいつもの様に飄々とした態度だ。
「克巳様、尾崎様の怪我の具合がよくなるまでは克巳様につくようにと旦那様からの伝言ですのでご用事の際はいつでもお申し付け下さい」
「…父さんはどうするの?」
「秘書の方にお任せするかハイヤーをお使いになると思います」
「…そう?」
本当にいいのかなと思いつつ頷くと尾崎は複雑そうな顔をしている。確かに尾崎の怪我は克巳を庇ったせいなんだからいっか、と克巳は納得する。
今はそんな些細な事よりも父親にちゃんと自分の口からも尾崎の事を公言するのが優先だ。
黒塗りのリムジンに尾崎と乗っているのがどうにも違和感を覚えるけどそれどころじゃない。
特に反対って事はないらしいが…普通息子が男となんて知って平静でいられるか?とも思うけど、それ位関心がないと思うならそうかなとも思ってしまう。
今までだって成績だって将来の事だって何一つ言われた事もなかったからそんなものかとも思ってしまうのだ。
それにしても尾崎が昨日言ってた事…本当に言う気だろうか…?
「克巳?」
尾崎がそっと克巳の耳に囁いて来た。
「昨日言ってた事…克巳の親父さんに言っていい?」
尾崎がにやりとしながら聞いてくる。
「……バカ」
尾崎も同じ事を考えていたらしい。
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