あっさりと会食を済ませ、克巳は尾崎の家に泊まりこむ為の荷物を作り、尾崎と車に乗って今度は警察署へと向かった。
迎えに来ると言ってた尾崎の同僚の山口さんには予め迎えは大丈夫だと断りを尾崎が入れてある。
車に乗って尾崎にさっきの会話は何の事だ?と聞こうとしたら尾崎の携帯に電話がかかって来た。
「もしもし…ああ、この間は悪かった。助かったよ。…ああ、終わった……はぁ?マジか?………ああ……」
尾崎が電話をしながら克巳をチラッと見た。
「…チッ……分かったよ。ああ…じゃ」
尾崎が頭を抱えながら携帯を切った。
「…誰?」
「梶原。今日の夜食事に付き合えってさ。克巳も一緒に。この間克巳にほんのちょっとだけしか会ってないのが不満らしい。西岡もだと。しかも場所はアソコだ」
アソコって…小関さんの所かな…?
「あ、でも…西岡さんも…って…いいのか?」
ヤクザと警察が一緒って…?
「まぁいいんじゃない?表向きはちゃんとした会社社長になってるし。ヤツのとこは警察に睨まれるとこじゃないから。ヤクとかウリはしてないからね」
…いや、でも極道に変わりはないのでは?と思うが黙っておく事にする。克巳を助ける為にあの場所に尾崎が来たのはきっとあの人のおかげなのだろうから…。
「克巳は気にしなくて大丈夫ですよ?警察の中でもね、色々持ちつ持たれつというのがあるんで」
「…そうか…?」
どうにも訳のわからない事ばかりだ。
「帰りは食事をなさって帰るなら時間にお迎えに参りますが」
運転手が尾崎の話を聞いて声をかけてきた。
「あ、大丈夫です。一緒に食事する者が運転手付きのヤツなので送ってもらいますから。署からも同僚に乗せてもらえるんで今日は署まででいいですよ」
「そうですか…?待つのは慣れてますのでお気遣いはよろしいですよ」
尾崎が丁寧に運転手に断っていたのを見て克巳はちょっと笑いたくなった。運転手付きというのに慣れていないんだ。克巳だって頻繁に乗るわけじゃないけれど。
「…お坊ちゃまですもんね…」
はぁ、と尾崎が警視庁に付いて車を降りてから溜息を吐き出した。
手にはいいというのに克巳の荷物を持っている。どうして怪我をしてる尾崎が持つのか意味が分からない。
「荷物は女じゃないんだから自分で持つ」
「いえ、克巳に持たせたくないだけですから気にしないで。女の子扱いしてるわけじゃない…って言っても信じてもらえなさそうですけど」
「当たり前だ」
「ただ克巳を大事にしたいな、という現れなんですけどね。今は怪我の事もあって全然あれこれ役に立ってないし、克巳に世話になりっぱなしだから。お礼という事で」
「……いつもは俺が世話になってるんだから気にする事ないのに」
克巳の荷物を持って悠然と歩く姿を見れば尾崎の事を怪我人だなんて誰も思わないだろう。
そのまま尾崎と一緒に署内に入ると、尾崎を見つけた顔見知りの警察官が声をかけてくる。
だが表立ってではなくどこかこそりと内緒話のように怪我の具合を聞いてくるのが不審だ。
ニュースにもなっていなかったが、もしかして表立って尾崎の怪我は伏せられているのか…。
なにしろ色々と都合があるらしいと克巳は余計な事は一言も言わず、ただ尾崎の後ろをついて行った。
あるドアの前で尾崎が止まり、コンとノックすると中からどうぞと声が聞こえる。
中にいたのは光流くんのお父さんと尾崎の相棒の山口さんだった。
「やぁ江村くん、大丈夫?」
「あ、はい…俺は平気ですけど」
「いや…拳銃もつきつけられてたって聞いたし…」
「いえ…ホントに俺は大丈夫です。俺よりも尾崎の怪我が…」
「コイツは大丈夫でしょ。無茶の内に入らないよ。昔に比べたら江村くんを助けての傷だなんて成長したもんだとは思うけどな!」
「…武川部長…」
尾崎が苦虫を潰したような表情だ。
「……余計な事言わないでくださいよ…」
「余計な事?」
ぷっと光流くんのお父さんが笑っている。
「昨日はよくやった!それよりも…お前…性犯罪とクスリはやらないと思ってたのに…」
はぁと光流くんのお父さんが溜息を吐き出し、克巳は尾崎に背中を押されて椅子に座った。
「?」
「何言ってるんですか。克巳は18歳なってるし合意だし。それ言ったらあなたの身内の方が犯罪者でしょう」
「…だよな」
あ…武川刑事と唯くんの事?……というか、克巳の事も尾崎と、って分かったって事か?
それでも克巳は必死に顔を取り繕って普通のままの表情を保った。
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