いくら父親が議員だとしても克巳には関係がないし、それで信用してくれているわけじゃない。克巳の力の事だって個人の事として見て、そして父親の事抜きで評価してくれているのだ。
「じゃあコーヒー飲んだら尾崎さん病院に行きましょうか」
「肉抉れてるんだろう?まったく…怪我が絶えないな」
「…しばらくぶりですよ?怪我なんて」
「そんな怪我は滅多にないだろうが。刺し傷とかだって普通はないものだ。江村くん、コイツの事よろしくね」
克巳は無言で頷いた。どうやらすでに克巳と尾崎の事は先ほどの会話から知られているらしいが、唯くん達の事があるから慣れたものなのだろうか…?と思いつつも克巳は頷く。
それはいいけど…刺し傷…?
克巳はちらと尾崎を見た。
そういえば尾崎の身体を昨日拭いていてあちこちに結構色々な傷痕が大小あるという事に気付いた。今までそんなじっくりと尾崎の身体を見たわけじゃなくて昨日気づいたのだが…。昨日は熱も出ていたしそれを聞くのは遠慮したのだが…。
ちらと視線を向けると尾崎が克巳の視線に気づいて苦笑していた。
その後少ししてから山口さんに病院に送ってもらい、そして一度尾崎のアパートに寄ってもらって克巳の荷物を置き小関さんの店のあるホテルまで送ってもらう。
「…休んでた方がいいと思うんだけど。昨日だって熱あったのに」
「大丈夫です」
「明日も病院行くでしょう?迎えに行きますか?」
「あ、父が運転手付きで車を使っていいと言われたので大丈夫です」
克巳が答えるとさすが…と山口さんが目を瞠っていた。
「まぁ息子さん助けたしね…。でも尾崎さんのとこに泊り込みなんですか?」
「克巳のお父さんにもちゃんと挨拶済みだからな」
尾崎が飄々を告げるとえ!?と山口さんが運転席から振り返った。
「カムアウト済みなんですか!?」
驚愕の表情だ。
「…普通はそうだよな…?俺…皆普通だから俺がおかしいのかと思ったけど…」
「いや!江村くんが綺麗だから分かりますけど…うわ…さすが尾崎さんだ…」
「…さすがってなんだよ」
「だって普通じゃないから」
「……尾崎が普通じゃないのか?」
克巳が普通じゃないのは分かるけど尾崎が?
「そりゃあね…ハンパないやんちゃぶりだから…うわぁ…」
ハンパないやんちゃぶり?…光流くんのお父さんも何か言ってたけど…。
「…ゆっくり話しますよ。あんまりしたくないですけどね」
尾崎が苦笑しながらそんな事を言って克巳は興味津々のまま頷いた。
「いや…その前に色々バラされるかな」
尾崎がははと乾いた笑いと漏らした。
ああ、これから会う予定の二人か?と克巳は尾崎を見た。
「傷…本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。確認済みでしょう?」
尾崎がこそりと克巳に耳打ちする。
「無理しなければ平気ですよ」
…昨夜の事を言っているのか、と克巳は少しばかり動揺してしまう。昨日は克巳が我慢出来なくて自分から尾崎を求めたようなものだ。
仄かに耳が熱くなったが顔を窓の方に向け自分を落ち着かせる。
「じゃああとは尾崎さんはゆっくり休んで下さい」
「ああ…。何かあったら連絡するし、よこして」
「了解です」
山口さんに送られた車を降りて克巳も頭を下げた。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
山口は終始にこやかで去っていった。
「そういえば尾崎は怪我の事家に…」
「言ってないですよ。こんなちょっとで入院するわけでもないですからいいですよ」
「でも…銃創だなんて…」
克巳が顔を顰める。
「克巳は気にしなくていいですって。俺の怪我なんか珍しくないので大丈夫ですから」
珍しいとかそういうものじゃないと思うんだけど…。
ホテルのエントランスに入ったところで尾崎の電話が鳴った。
「…克巳のお父さんからですよ?」
「は?」
「もしもし」
尾崎が電話に出た。克巳もそういえば、と自分の携帯を出した。雅彦の車に放置したままだった携帯は無事克巳の手元に帰って来てまだ見てなかった。
履歴に残っているのは尾崎の番号のみだった。他には誰もない。
「……」
自分でも呆れてしまう。克巳を本当に心配してくれるのは尾崎のみらしい。
「えっ!あの…」
尾崎が慌てているのを克巳はどうしたのだろう?と横目で見た。
用件が終わって電話が切れたらしく尾崎は憮然とした表情で携帯をポケットに仕舞った。
「引越しだそうです」
「は?」
尾崎が克巳を見て苦笑した。
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