こちらでございます、という声が聞こえて姿を見せたのは克巳もちらと見知った二人だった。
「よぉ」
「忙しいのにわざわざ時間取ってまで奇特なヤロー共だ」
尾崎が二人を見て軽口を開く。
その二人を見て克巳はあっけに取られてしまう。
ヤクザの西岡はピンストライプの三つ揃えのスーツをびしっときこなし、尾崎並にいい身体だった。そしてもう一人梶原グループの御曹司の方はといえば黒のスーツに中が赤の開襟シャツといういでたちでどこのチンピラかと思うように軽薄そうな格好だ。
「………江村 克巳です。先日はご迷惑をおかけしました」
あの怪しげな店に尾崎が来たのはこの二人のおかげなはず。一瞬言葉を詰まらせながらも克巳は立ち上がって頭を下げた。
「気にする事はない」
「そうそう」
二人に値踏みされるように視線を向けられている事が分かったがそれに動揺する事もなく克巳は正面から受け止める。
「尾崎の大事な仔猫ちゃんねぇ…」
梶原が面白おかしそうに呟いて不躾に克巳を見る。西岡もそこまであからさまではないがやはり興味津々といわんばかりの視線で克巳を見ていた。
「そういや撃たれたって聞いたが?」
西岡が尾崎のほうをちらっと見た。
「情報が早いな」
尾崎が顎で席に促すと二人は向かい側に腰掛けた。
……どう見ても梶原が大企業の御曹司には見えないのだが…。
克巳が納得のいかない顔をしていると尾崎が苦笑する。
「ほら、克巳がお前の服装の趣味が悪いって言ってる」
「言ってねぇだろが」
梶原が抗議するが隣で西岡がくっと笑いを漏らしている。
「小関ぃ…趣味悪くねぇよな?」
「悪いに決まってるだろ。そんな格好で店に来て欲しくないね。店の品格が下がる」
「え~…仔猫ちゃんはTシャツジーパンだろ?俺スーツよ?そりゃタイはしてねぇけど…。ここノータイでもいいんだろ?」
「江村くんは存在に品格あるからいいんだ。お前は欠片もない」
席に案内して来た小関さんが一刀両断だ。
「俺が一番まともな会社員なんだけど…」
ぶつぶつと梶原が不満そうに呟いている。
「克巳、これがいつもの格好なんです」
こそりと尾崎が克巳に耳打ちしてくる。
なるほど、だからあの日尾崎は梶原のふりをするのにあんな格好してたのか、と頷く。
「俺仔猫ちゃんのお父さんとも面識あるぞ?あんまり似てないな」
梶原が向かいからじっと克巳の顔を見ていた。
「綺麗だねぇ…でもさすがだな。全然動じないのな?」
格好はいただけないが人好きしそうなにこやかな顔を克巳に向けた。西岡も穏やかそうな顔をしているし、小関も人当たりの柔らかい感じでそこに立っていた。
でも本質は違うのだろう、と思う。尾崎と同じように奥に激情が潜んでいるように思えた。
「飲み物は?ワインでいいか?ああ、尾崎と江村くんにはペリエでも持ってくる」
「え?なんで尾崎ペリエ?」
「江村くんに酒禁止令出されてたからね」
くすりと小関さんが笑みを漏らして部屋を出て行った。
「そんなに傷ひどいのか?」
西岡が聞いた話と違うな、と言わんばかりに首を傾げた。
「いや、それほどでも。掠っただけだ」
「……肉抉れたのは掠っただけとは言わない」
克巳が小さく言うと尾崎は嘆息を漏らし向いの二人は目を見開いてから声を出して笑い始めた。
「尻に敷かれてる!」
そんな事で笑われるとは思ってもいなかった。
そんな感じで和やかに食事が進んだ。
大体話すのは梶原で尾崎の過去を知らない克巳にとっては新鮮だった。それに尾崎が終始リラックスした感じなのも新鮮だ。克巳が尾崎の詳しい過去は知らなくともその中に入れてもらえているという事が嬉しいとも思う。
さらに克巳との関係も完璧に分かっているはずの大人達は克巳に対して変な視線を向けても来ない。
興味津々で尾崎との事は聞かれるけれど、そこは尾崎がシャットアウトし克巳はほとんど口を開くこともなかったがなぜか克巳も居心地が悪い思いはしなかった。
今まで人との接触を避けてきたのにすんなりと受け入れられている。
これも尾崎がいるからだろうか?
自分一人だけが異質だと頑なだった心が仲間と思っていい唯くんの存在と唯一信じられる存在になった尾崎の出現で変わったのだろうか…?
でもそれが悪い事じゃないというのは自分でも分かる事だった。
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