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追憶の彼方から放されたい 127

 梶原さんの運転手つきの車で尾崎のアパートまで送ってもらい尾崎と二人になる。
 さすが大企業の御曹司。見た目はチンピラみたいな格好だが、と克巳は尾崎の部屋に入ってくすりと笑ってしまう。
 「ん?」
 「あ、いや…梶原さんの格好が…」

 「アレね…。本当に趣味悪いでしょ?自分じゃカッコイイと思ってるんだから…いい加減にしろって感じですけどね。俺はアイツの格好した自分がホント恥かしかった…」
 「…似合ってたけど?」
 尾崎の白スーツ姿を思い出し我慢出来なくなって克巳はぷっと笑ってしまった。
 「やめてください」
 はぁ、と尾崎が溜息を吐き出している。

 「…でもまぁ…克巳も紹介できたしよかった」
 「……嬉しいと思う。残念ながら俺は友達とかいないからアンタを紹介するとかできないけど」
 「いいですよ。ああ、唯くんには是非ちゃんと紹介して欲しいですね」
 「え?ああ…そうだな」
 克巳は考え込む様にして頷いた。確かに克巳にとって唯くんは尾崎とは別の意味で特別な存在だ。

 「そうだ、引越しの前に克巳に付き合って欲しい場所があるんですけど」
 「どこ?」
 「内緒です。明日にでも行きましょうか。都合聞いておかないと…」
 尾崎の呟きに誰かにまた会わせるのだろうか?と思いつつ克巳は頷いた。
 誰?とかどこ?とか克巳から詮索して聞く事は少ない。尾崎を信じていいし信じられるからだ。

 「頭洗って体拭いてやろうか?」
 「……そうですね。すみません…」
 「いや?俺にも出来る事があってかえって嬉しいから」
 正直に告げれば尾崎が克巳を抱きしめてくる。
 「可愛い…。ああ…これから梶原がうるさくなりそうな気がするなぁ…。西岡は遠慮するだろうけど」
 「?」

 「適当に付き合ってやって?」
 「勿論」
 「格好はナンですけどねぇ…一緒にいるの恥ずかしいからね」
 尾崎の言葉に確かに、と笑ってしまう。あれで大企業の御曹司とか…普通は見えないだろう。
 「アイツにもセンスのいい大事な人が現れてくれればいいんだけど」
 尾崎の溜息を聞きながら尾崎の服を脱がせていく。

 「…克巳…積極的ですね」
 ネクタイを外し、ボタンを外していく克巳に尾崎がキスしようとしてきて克巳は手でそれを遮った。
 「…今日はしない。早く治って欲しいから」
 「昨日みたいにしてもらえば問題ないですけど?」
 「…しない」
 「積極的な克巳もステキなんで…ん…」
 尾崎の口を克巳は塞いだ。

 「恥ずかしい事言ったら身体拭いてやらない」
 そんな事言ったって本当は尾崎は克巳がいなくても大丈夫な事は知っている。
 「…克巳に世話やいて欲しいので…じゃあ黙っときます」
 尾崎が仕方なさそうに溜息を吐き出す。
 「あ~…折角の思わぬ休みなのに…身体の自由きかないって」
 「自由がきかないから休みなんだろう」
 「そうですけどね」

 他愛もなく戯れ尾崎のベッドで一緒に眠る。それだけでも十分幸せを感じるのだから本当に自分は変わってしまったらしい。
 「なぁ?」
 電気を消し横になってからふと聞いてみたくなった。
 「なんです?したくなった?」

 「違う。どうして皆普通なんだろう?」
 「何が?」
 「だって…男…なのに…」
 「ああ…俺と克巳の事?……ですね。バレてる人達が皆普通ですね」
 「……普通…じゃない…よな?」
 「まぁ…本当ならね。でも俺を知っている人も克巳を知っている人もきっとよかったと思ってくれているんでしょう」
 尾崎の言いたい事が克巳にも分かった。

 たった一人で生きていくんだと思い込んでいたような自分がいたから。
 でも人は一人じゃないし、一人だけで生きていくなんて出来ない。なにかしら人と交わって生きていかなければならないのだから…。
 そこに大事な存在ができれば自然人は変わると思う。現に克巳の心の中は大きく変わった。尾崎もそうなのだろうか…?

 そうだといい、と思いながら尾崎に擦り寄ると尾崎の自由の利く腕は克巳を抱きしめ、そして暗闇の中軽いキスをしてきた。
 軽く何度も。克巳からも返す。
 こんな甘ったるい夜があるなんて知らなかった事だ。子供の頃から夜だってずっと一人だったのに。今は一人になる事が考えられない位だった。
 
 
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