「……笑いすぎです」
今度は尾崎の怪我が治ったらまたゆっくり来るという約束をして尾崎の実家を後にしたが車の中でも克巳はずっと肩を揺らして笑ったままだった。
金髪に染めて目つきが険しくタバコを持って凄んだ写真を袋から出して見ては口を押さえてしまう。
「…克巳がご機嫌なようでいいですけど」
尾崎は諦めたように呟いた。
「色々…話聞かせて欲しい。昨日の食事の時にもちょっと話出てたけど、俺は知らないから…。全部が全部を知りたいってわけじゃないけど…尾崎の口から聞きたい」
「…ゆっくりとね。幸い休みなもんで時間はありますし」
克巳はこくりと頷く。
笑っていた顔がやっと治まった。今も聞きたくてうずうずしてしまうが、運転手もいるしと克巳は口を噤んで我慢する。
こんなに笑ったのは初めてかもしれないと尾崎の顔を見た。
「?」
なんです?という顔で尾崎がすぐに克巳の視線に気づく。
「…本当に引越しでいいのか?」
すでに克巳の荷物はまだ場所も部屋も見てもいないのに運ばれたらしい。
勝手に、強制的に同居にさせられたみたいで克巳はいいけど尾崎はいいのだろうかと思ってしまう。勝手に物事を運ぶ父親に呆れてしまうがあまりにも早すぎる事態に克巳も戸惑っているのが現状だ。
どうやら父親の持ちマンションだったらしいからこんなに早く物事が運んだらしいが…。
尾崎はくすりと笑って克巳の膝をポンと叩いた。
「よくなかったら頷いてませんよ」
…それならいいんだけど…と思いながらも克巳は楽しみにしているのだ。
「克巳のボディガードも兼ねて、って事らしいので。まさかこんな事になるとは思ってもみなかったですけど」
「…だよな」
ゆっくりとした会話をしているうちに尾崎のアパートに車が到着した。
それにしても目まぐるしいな、と克巳が苦笑してしまう。
自分の心情が大きく変わったのは勿論だけど、力の事で警察に協力とか、母親の事とかも。ほんの何ヶ月前まではこんな事になるなんてまったくもって思ってもいない。
それが尾崎が現れてから180度といっていいほど取り巻く環境が変わった。
全部がいい方向にだ。
「そういえば俺の顔とか大学とか知ってたんだ…?」
「え?ああ…初めて行った時?そりゃあね、江村議員の息子さんがって話は聞いたし、顔は小さい頃の写真をお義母さんが持ってたのも見たな。大きくなってからの姿は知らなかったですけど、大学で聞いたらすぐに教えてもらいましたよ?有名人らしいしね」
「有名?」
「そう」
確かに父親の事を考えれば勝手に噂されるのは今に始まった事じゃないが。
まぁいいや、とそこは流して階段を上がり尾崎の部屋に向かう。
ドアの鍵を尾崎が開けるのを見ながら折角貰った合鍵の出番がほとんどなかったな…とちょっとそこが残念に思うが尾崎から渡されたという事が大事な事らしい、と自己解析する。
それにこの部屋に来られなくなるのはちょっと寂しいと寂寥感も浮かんでくる。帰りたくないと言った克巳をここに連れてきてくれて寝てしまったり、熱出して尾崎が看病してくれたり、克巳にとっても思い出深い。
「どうか?」
玄関先でぼうっとした克巳に尾崎が不思議そうに聞いて来た。
「ん…部屋なくなるの…寂しいかな…って」
「じゃあそのままにしときますか?マンションは克巳のお父さんがなんか全部費用持つって言ってきかないし。このままにしてても俺はいいけど?」
「それはダメだ。俺の事が嫌になったって出て行かれたら嫌だから」
即座に克巳が却下すると尾崎は一瞬目を丸くしてふき出した。
「俺に逃げ場所はないって?」
「そうだ」
こくりと頷くと尾崎が笑っている。笑うと傷に響くのか眉間をちょっと顰めてそして笑いを止めた。
「そんな可愛い事言うのに俺が嫌だなんてなるはずないでしょう」
…だといいけど。
「むしろ克巳が嫌だと言ったって離してやりませんけど?」
「なるわけない。…全部…俺を変えたのは尾崎なんだから」
「勿論。責任取らせていただきます」
尾崎は当然、と頷き表情を緩めて玄関先で克巳を片手で抱きしめた。尾崎の胸にすっぽりと入るようにされればそれだけで安心感を覚えるのはもうすり込みだろうか?
「…可愛い…」
尾崎が小さくそう呟きながら克巳の頭にキスしてきて顔が火照ってくる。独占欲を見せてるのにどこが可愛いのか自分にはわからないが尾崎にはどうやら有効的らしい。
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