「…今日はありがとう」
「ん?お義母さんの事?」
「ああ」
「……話を聞いてたからね。ずっといつ連れて行こうかと思ってたんですけど。はじめのうちは俺の事なんかどうでもいい存在だったみたいだし…さてどうしようかなと思ってたんですけど」
「ごめん。だって…尾崎が嘘くさいから」
「…胡散臭いとか嘘くさいとか散々なんですけど?」
「悪かったって。今なら分かるけど、尾崎は自分を隠してるから…だからそう感じたんだと思う」
「…でしょうけどね」
唇が触れるか触れないかの所で会話が続く。
「俺は最初から可愛いな、綺麗だなって結構気になってたのに、素っ気無いから」
「知らない。そんなの。……というかお前男だし。…気にならないのか?男の方いいのか?」
「まさか!嫌ですよ。克巳だから…特別なだけ。ホントにここに連れてきて寝ちゃった時はどうしようかと焦った。据え膳でいいのか?って真剣に悩みましたけど?」
「んなわけあるか」
「だから我慢したでしょ?当時の俺だったら速攻でいただきましたけどね。大人になったので」
「…そこ威張るとこじゃない。その後だって熱出してたのに…されるし」
「あれは克巳が誘ってきたんだから仕方ないでしょう」
「誘ってない!…あ、そういえばストーカーの相談とかって言ってたのどうなったんだ?」
勝手に克巳が彼女だと誤解してた相手だ。
「ああ、最寄の警察署に届け出して話し合いで済んだらしいです。だからさっさと届け出しゃいいのに。おかげで一回は克巳にデートはふられるし」
「……」
勝手に彼女だと思い込んでいた克巳は口を噤む。
「ホントやきもきした。俺には懐かないのに唯くんや武川部長の息子さんとは遊んでるらしいのにも苛立ちましたけど」
「…遊ぶってほどでも…ないけど…」
あの時期は互いにすれ違っていたから…。
それでも今こうしていられるのだからそれも必要だったのだと思う事にする。
「……早く怪我治せ」
「順調ですよ?…ホントに早く治さないと俺がもちそうにないし…キレそうです」
「?」
「だって目の前に無防備でいつでもOKな克巳いるのに手出し出来なくて。
「…別に…これから…一緒なんだし…」
「だってね!何もした事ない克巳が俺の為にご飯炊くとか!そんな事されちゃって…愛されてるなぁと実感するわけで。だったら俺も克巳に体感させてやらな…」
かっとして尾崎の口を両手で塞ぐ。
「うるさい」
尾崎の目が笑っている。
あんなに見えなかった表情が見えるという事は尾崎もいくらか変わったのだろうか?そうだといいな、と思いつつ手を離して克巳は首を伸ばして自分から軽くキスした。
元々尾崎の荷物もそこまで多くもなく、家電類もマンションに揃っているらしいので引越し業者にお任せで運んでもらったのは衣類や小物や書籍類だけだった。
江村家の運転手にマンションまで連れていって貰えば引越し完了というあっという間さで拍子抜けする位だった。
マンションのカードキーも運転手が持ってきてくれて引越しというよりも場所を移動したという感じだが…。
コンシェルジュがいる高級マンションの最上階という物件に克巳も尾崎も頭を抱えた。
「…すみませんけど、俺には不相応だと」
尾崎がモデルルームみたいなリビングの立派な黒の革張りのソファに沈みながら呟いた。
「俺に言われても…こんなの持ってるの俺も知らなかったし」
何しろ全然何も分からないまま連れてこられたのだから暢気だ。
「確かにね…克巳のお父さんの持ち物っていうなら…ですよね」
「…俺は普通でいいんだけどな」
二人で溜息を吐き出す。
「セキュリティは確かにしっかりしてるし、コンシェルジュも常駐してるみたいですし安心ですね。克巳の事考えればこれ以上の物件はないですね」
「…俺の事?」
「そう。ストーカーとか来られたら大変だ」
「……ないだろ。女じゃあるまいし」
「いえ、ありますよ。大学でだってあんなに人目を引いて。危険だ」
惚れた欲目じゃないのか?と克巳は呆れる。
広いリビングに大きな窓。夜は眼下に夜景が広がるだろう。
その後尾崎と部屋の探索をすれば寝室には大きなベッドが一つ。バスルームも広い。尾崎が夜が楽しみとくすりと笑い克巳は恥かしすぎると盛大な溜息が漏れた。
どうやら家具も何もかも新調したらしいのは匂いで分かる。
たった一日二日でこんな用意をする父親に頭を抱えた。
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