マンションに引っ越して翌日から尾崎は仕事に復帰した。まだ無理は出来ないけど内勤は出来るだろうと光流くんのお父さんに召喚させられ尾崎は車も取りにいかないとね、と仕方なさそうに出勤したのを見送った。
克巳は一人広い部屋のキッチンで備品の確認をしていたが一通りなんでも揃っていた。
そして思案して携帯を手に取った。
『もしもし!江村さん!大丈夫!?』
「ん?」
唯くんの声が慌てていた。
『なんか色々あったって!大変かなと思って連絡しなかったんだけど…』
心配してたんだと可愛い声が電話口から聞こえる。
「俺は平気。怪我したのは尾崎だけど…。今日から仕事行ったしね。まだ怪我が治ったわけじゃないけど、化膿もしてないから大丈夫。ねぇ、武川刑事は?仕事?」
『うん』
「だったら家に来ない?あの実は引っ越して…」
『引越し!?いつ?』
「昨日」
『昨日?じゃ手伝いに行く!』
「うん?あ、いや、部屋は散らかってないから大丈夫だけど。その…唯くんに教えて欲しい事があって…」
『僕に?』
「そう…簡単に作れる料理とか…」
今日の分の洗濯なんかはちゃんと済ませた。覚えれば簡単な事で、スイッチ一つで済むのだ。
『あ、そっか!一人暮らしだから…』
「え、…っと…一人ではない…んだけど…」
『え?誰と?』
きょとんとしてる唯くんの顔が浮かんでくる。
「…その…尾崎、と」
『えええ!?』
「…だからその辺も色々話たいし…あ、あと近いんだ。歩いて15分位の距離かな…。使う駅も一緒。方向的にはちょっと違うけど…」
『行く!』
唯くんの声が弾み、克巳も顔が紅潮する。
待ち合わせ場所を決めて、ついでにスーパーで買い物して一緒に何か作ろうと唯くんから提案され、克巳は頷いた。
「うわぁ…広いね」
「武川刑事のマンションも広いでしょ」
「…桁が違うと思うけど…」
唯くんを案内して一緒に昨日から住み始まったマンションに案内した。
大きな冷蔵庫には昨日少しだけ買った分しか入ってなくて買ってきたものを冷蔵庫に納めてからコーヒーを入れ、まずはダイニングで唯くんと話をする事にした。
バスジャックの事も数日前の事件の事も唯くんは光流くんのお父さんから武川刑事経由で話を聞いていたらしい。克巳が大変だったと思ってメールも電話も遠慮してたらしいが。
問題はそこじゃなくて尾崎との同居に至ったまでだ。
話す間も唯くんは終始笑顔でにこにこだ。
可愛いな…と思ってしまう。唯くんのようならば可愛いも分かるけど、なんで尾崎は自分みたいなのを可愛いとか言うのか不思議だ。
そんな事考えながらも一昨日会った母親の事までも簡単に説明する。
「…そうなんだ…なんかいっぱい色々あったんだね。でもよかった!」
唯くんがにこりと可愛く笑って克巳も頷く。
「ん。…そう思う。それにこうして唯くんが来てくれたのも嬉しい」
「僕も!光流の家以外って行った事ないし」
「これから来て?それに色々教えて欲しいし」
「僕だって全然出来てるわけじゃないと思うけど…」
顔を合わせて笑ってしまう。なんかくすぐったい感じだ。
「あ…夜このまま武川刑事もこっちに来てもらって夕ご飯も一緒にしちゃったら?そうしたら唯くんの迎えにもなるし」
「…いいのかな?尾崎さんは?」
「ダメって言わないと思う」
じゃメールする!と唯くんは嬉々として携帯を出し、克巳も尾崎に唯くんを呼んで夜に武川刑事も呼ぶとメールするとすぐに尾崎から電話がかかってきた。
「もしもし?」
『なんですか?あのメール』
尾崎がくすりと電話口で笑っている。
「今唯くん来てもらってて…その、料理とか教えてもらおうかなと思って…。ついでだからと思ったんだけど…いい?」
『勿論いいですよ。楽しみにして帰ることにします』
「ん。…あ、病院は?」
『ちゃんと午後に行きますよ。じゃああと帰る時にでもまた電話入れます。どうせ事務しかできないから遅くなる事はないですけど』
「わかった」
いつもよりも電話の距離が近い気がするのはどうしてだろう?
電話を切ると唯くんがニコニコしながら恥かしそうにして克巳を見ている。
「…何?」
「ううん!…幸せそう…と思って!」
「……それは唯くんもでしょ?」
「そうだけど。……分かってくれる人がいるって違うよね…」
「…そうだね…。本当に」
唯くんの言葉に克巳も頷く。特殊な身上だからこそその特別な思いは唯くんと克巳にしか分からないだろう。
顔を合わせて笑みを浮かべて頷き合った。
たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m
にほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説